「日本に100兆円レベルの経済損失が出ると、影響は世界に広がる。その規模は1929年の世界大恐慌よりも大きくなるだろう。これは本当なのかね」

 総理は二つのレポートに目を落としている中原信助財務大臣に言った。

「レポートにはそう書かれています」

「その100兆円レベルの経済損失の原因が、東京直下型の巨大地震だと言うのかね」

「東京に巨大地震が起こると、建物、道路、電気、水道、ガスなどのインフラが崩壊するばかりではなく、経済、生産、金融などの面において、トータル100兆円を超える経済損失が出ると試算されています」

 総理はソファーに座っている経済担当大臣、国交大臣、そして官房長官に向き直った。

「たしかに影響は少なくありませんが、これほどになるとは信じられません」

「しかし、データに基づくアメリカの判断だろう」

「こんなことがマスコミに漏れればそれだけで、国民は東京から逃げ出すでしょう。そうすれば、必然的にこの論文にあるような事態が起こる可能性は十分あるかもしれません」

「アメリカがわざわざ、大統領の特使をよこすほどです。かなり信憑性が高いと思われます」

 この二つのレポートを単独に見せられれば、さほどのインパクトはないだろう。しかし、二つ同時に提出されれば、遥かに現実味を帯びたものになる。

「どういたしましょう」

「どうしようと言っても、我々になにができる」

「学者のレポートはともかく、大統領特使の持ってきたレポートには返答が必要でしょう。そのために総理に直接手渡したのです」

 総理は考え込んだ。