アメリカ側のレポートには100兆円レベルの経済損失とあるが、その原因となるのは東京直下型マグニチュード8クラスの巨大地震であることは間違いない。

 東日本大震災の例を上げて、東京は原発に近すぎることと、地震、津波、大洪水による直接、間接的な被害、特に首都機能がマヒした場合を危惧していた。

 さらに、日本から世界に広がる経済危機についても言及している。

 東京が破壊されることにより、1929年の世界大恐慌の再来が予想されるとしているのだ。国債の暴落、為替相場に対する国際市場の評価とヘッジファンドの介入など、精緻に多角的に考察している。

「現在、アメリカ財務省が中心となって、より詳細で具体的な報告をまとめているそうです」

 総理は、余計なお世話だという言葉を呑み込んだ。現在の世界情勢を見ると、危惧せざるを得ない事実なのだ。

「仮定に仮定を重ねた結果だ。日本のことは日本に任せるべきだ」

「そうはいかないのが、現在の国際社会です。世界は見えない糸でつながっているのです。バタフライ効果というやつです」

「ブラジルで蝶が羽ばたけば、テキサスで竜巻が起こるというやつか。そうならないように、世界は連携を取っている」

 そう言いながらも総理は東日本大震災当時を思い起こしていた。

 東北の中小企業が壊滅的な打撃を受けて、数か月間世界の自動車産業に支障が出た。その後、タイに水害が起こったが、やはり影響は世界に広がった。日本の製造業は、のきなみ業績が悪化している。

 このレポートに書かれていることも、単なる想像と片付けるわけにはいかない。

 そして、この5年以内にマグニチュード8の東京直下型地震の発生確率が90パーセントという研究レポート。この二つのレポートが現実となれば、日本経済の崩壊どころか、世界経済が破綻する。

「大統領はレポートを公表するつもりなのか」

「そんなことはないでしょう。ヘッジファンドがすぐに動きます。日本国債、円の価値が急激に下がるでしょう。そうなれば日本に投資している外国投資家が直ちに売りに入ります。国債の利回りは高くなり、円は下がります。日本は破滅への道をまっしぐら、と言うことになりましょう」

「現在でもミュンヘン再保険会社のデータでは、ロサンゼルスを100とする災害リスク指数が東京は710で、1位です。それもダントツの」

「東日本大震災後、世界は日本に対する認識を改めています。経済には強いが、背景にとんでもない危険をはらんだ国だと」

 世界は世界恐慌一歩手前までいっている、と言う経済学者も少なからずいる。