嫉妬や怒りの感情は、現在の生活保護にも向けられることがあり、再分配問題を考える場合に、根の深い問題だ。

 JPモルガン証券のストラテジストでJMM初期からの寄稿家である北野一氏は、独自の視点から切れ味の鋭いエッセイを書かれるが、ベーシックインカムの「財源」と「バラマキ」の問題について、前者は現状の社会保障の置き換えなので本質的な問題はなく、後者は人権が全ての人になるなら当然だとスッキリ片付けた上で、ベーシックインカムと「労働意欲」の問題について、ベーシックインカムの推進論者であるゲッツ・ヴェルナーの著作『全ての人にベーシックインカムを』(現代書館)を引いて検討されている。

 北野氏は、ヴェルナーが労働意欲の問題について反論した際の「自発性のない人間は、これまでにも常に存在したし、今後も存在するであろう。そのような人間を社会はいつも我慢してきたのだし、今後も彼らを我慢しなければならないだろう。私たちがどんなに努力をしても、仕事嫌いの、内的無気力に襲われた人間を意欲的な人間に変えることは出来ないのです」という「あからさま」な言葉に、「興ざめした」という。

選択に非介入で経済的に効率的
BIが伴う「突き放した」感じ

 ベーシックインカムが長年議論されながら実現しないのは、「人権擁護でありながら、やや突き放した感じがするからではないか」という北野氏の推測も、重要なポイントを突いている。

「現金を平等に給付するから後は自分で何とかしろ」というベーシックインカムの考え方は、個々人の選択に対して非介入的で経済的には効率的(各自が効用を追求しやすいという点で)だが、一方で確かに「突き放した」感じを伴う。

 BNPパリバ証券のクレジット調査部長である中空麻奈氏は、「なぜか空恐ろしい感覚に囚われる」と言い、評論家の津田栄氏は欧州でベーシックインカムが実現しない理由について「かつての古代ローマが、『パンとサーカス』から食べることに不自由しなくなると欲求が増えて、それが結果的に働かず怠惰になり、勢いを失って、没落していったように、そうした人間の持つ影の側面を恐れているからかもしれません」と結ぶ。