人柄の悪そうな経営者のほうがもめごとが起こらない!?

 意外ともめにくいのが、決して人柄がいいとはいえない経営者です。

 以前、その筋の人のようなファッションを好む経営者から依頼を受けたことがありました。真面目に飲食業の会社を経営しているのですが、ファッションと荒々しい言動のせいかちょっと怖い雰囲気があるのです。その社長のもとに社外の労働組合から団体交渉の申し入れがあり、私が相談を受けることになったわけです。

 社長はその申し入れを受け、団体交渉に臨みましたが、交渉はうまく進みません。労働法を知らない社長は労働組合の要求を「有給休暇をくれと言われても、景気が悪くて売上が落ち込んでいるのだから困る」などと一蹴するのです。

 組合側がいくら「労働者は有給休暇をもらう権利がある」と説明しても、「そんなことは知らない。法律なんか関係ない」と聞く耳を持ちません。それどころか「有給休暇を取る前に、もっと真面目に仕事をしろ。この間はとんでもない失敗をしていたじゃないか」と話をどんどんずらしていきます。労働法的にはとんでもない使用者といえるでしょう。

 本当なら労働者も怒って当然です。隣で聞いていた私も「この交渉の仕方と内容では、これから労働委員会に呼び出されたり裁判になるかもしれない」とハラハラしていました。私からも「社長、有給休暇は取らせてあげなきゃだめですよ」と言うのですが、「先生はどっちの味方なんだ」と聞く耳をもちません。

 ところが予想は見事に外れ、組合は社長の迫力に押されていきました。社員は社長を目の前にすると怖くて何も言えません。社長と目が合わないようにうつむいたまま、黙っているのです。

 要求もどんどん小さくなりました。最初は「給料を上げてほしい。賞与も2ヵ月分はほしい」という要求だったのが、「有給休暇を取らせてほしい」という要求に変わり、最後にはとうとう「せめて取得可能な有給の日数を給与明細に記載してほしい」という要求になったのです。