そして何回か交渉を繰り返した後、労働組合は要求を何一つ受け入れてもらえないまま団体交渉を終了してしまいました。交渉がまったく進まないため、組合も「この社長には何を言っても無理だ」とあきらめてしまったのでしょう。
いろいろな経営者に会っている私としては複雑です。労働者のことを考え、労働者のために尽くしている社長は団体交渉でいじめられている一方で、社員から恐れられている社長は難なく団体交渉を乗り切ってしまうわけです。
こうしたやり方がいいとは思いませんが、労働者は経営者に絶対服従、経営者は労働者になめられたら終わりという雰囲気のある会社のほうが、トラブルが起きにくいのは事実です。労使の関係はきれいごとではうまくいかないのです。
たとえばとび職など徒弟制度のある職人の世界では、現場の親方は絶対的な権力を持っています。仕事で尊敬されるのはもちろん、強面な人ほど面倒見がよかったり、人間味があったりするので、弟子たちに自然と慕われるようです。その結果、親方と弟子の間には法律や理屈が通用しない関係が確立され、その関係は滅多なことでは崩れないのです。
実際、前述の強面社長にも、子供が病気になった社員にはどんなに忙しくても仕事を休ませるなどの優しいところがあったようです。社員にも同業他社より高い給料を支払っていました。そういう優しさがあるからこそ、社員は我慢して社長についていくし、その会社で長く働こうと思うのでしょう。
要するにバランスが大切なのです。法律をまったく守らない経営者も問題だし、優しいだけ、厳しいだけの経営者も問題です。そのバランスをうまくとらないと、会社は長続きしません。
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