この会社のように、いわば権力闘争の道具として労働組合が利用されるケースは少なくありません。私の事務所だけでも年に数件の相談があります。ひどい場合には、がんで亡くなった先代社長の喪が明ける四十九日に労働組合の結成通知を送ってきたこともありました。
創業者である社長は強烈なキャラクターを持ち、カリスマ性やオーラで社員をコントロールしているケースが少なくありません。その場合、先代ほど強いカリスマ性を持たない新社長が事業を継承するのは非常に厳しいと言わざるを得ません。
草食系経営者はトラブルに悩まされる
経営者の人柄がいい会社も、労使間のトラブルが発生しやすい傾向があります。たとえば社員に手作りの弁当を配る社長、お小遣いを渡す社長など、社員に気をつかい、社員のために尽くす社長ほど、労働者ともめるのです。
私も最初は「なぜこんなに優しい社長に反抗するのだろう。ひどい話だ」と思っていました。しかし、使用者と労働者は、家族でも友だちでもありません。労働力を買いあげ、命令して仕事をしてもらう関係です。親切にするのはかまいませんが、必要以上に甘やかすとその関係を忘れ、どんどん調子に乗ってしまうのでしょう。
経営者にしてみれば、飼い犬に手を噛まれたようなものです。労働者のためにここまで尽くしているのにという思いが強いほど、腹が立ちます。その結果、感情的なしこりも大きくなり、どんどんドロ沼にはまっていくわけです。
こうしたトラブルで苦しむ経営者をたくさん見てきて思うのは、使用者と労働者は、その境界線をきちんと引いた上で接するべきだということです。
ほとんどの中小企業では、使用する・されるという立場は一生変わりません。社員がどんなにがんばってもトップの座につくことはできないのです。社員を大切にするのは素晴らしいことですが、どんなに社員のモチベーションを高めても「使用する側」「使用される側」であるという認識は持ち続けるべきです。経営者がその認識を失うと労使の関係が崩れ、悲惨なトラブルが起きるような気がしてなりません。
最近、いわゆる「草食系・調整型」の経営者が増えています。とくに若い世代には「オレについてこい」というカリスマ性を備えた経営者がなかなかいません。
父親から会社を引き継いだ2代目、3代目社長が草食系の場合、古参社員との関係が逆転してトラブルになるケースが多く見られます。自分が使用者であることを忘れず、使用される立場であることを忘れた社員は排除するくらいの気構えがなければ、いずれ権力闘争が勃発し、会社が分裂するなどの深刻な事態になるかもしれません。