水なしでも飲める錠剤を開発
迫 和博・アステラス製薬執行役員、アイルランドプレジデント Photo by Masataka Tsuchimoto

 朝90%、昼30%、夜70%──。これは、薬に関する1980年代終わりごろのデータ。何を示すか想像できるだろうか。

 答えは、薬を飲むべき人を分母に、実際に薬を飲んでいる人を分子にしたパーセンテージである。つまり、昼間で言えば、7割の人が薬を飲むことをサボっている。

 どんなに良い薬があっても、患者がきちんと飲まないと意味がない。そんな至極当たり前の悩みを90年ごろ、山之内製薬(2005年に藤沢薬品工業と合併してアステラス製薬)製剤研究所の研究員だった迫和博(現アステラス製薬執行役員、アイルランドプレジデント)は抱えていた。

 製剤とは、医薬品の有効成分に添加物などを配合し、使いやすい形(剤形)にする工程のこと。

「口の中に味が残りやすいから粉薬は嫌」「喉に引っ掛かる感じがするから錠剤やカプセル剤は嫌」など好みは人それぞれで、薬の成分の方も物によって苦味が強かったりといろいろだ。それでも、できるだけ飲みやすい剤形で製剤化がなされている。

 迫が悩んでいた当時は、新しい効果の薬の発見だけではなく、「製剤で何かできないか」という動きが盛んになってきた時期だった。

 薬を飲まなければいけないのに飲まない理由は何か。

「仕事が忙しい」「職場では飲んでいるところを見られたくない」「酒を飲みに行って忘れた」など、いろいろな理由が考えられた。その中に見過ごせない理由があった。

「水が周りにないから飲めない」というものだ。

 薬は水と一緒に飲むのが当たり前──。「いや、本当に水なしで飲めないのか」と迫は考えた。