『ブルー・オーシャン・シフト』の刊行にあわせ、日本でブルー・オーシャンを切り開いた企業を紹介する本連載。第2回は飲食業界に新しいビジネスモデルで乗り込んだ俺の株式会社を紹介する。
レッド・オーシャンの激戦区!レストラン業界で見る、ブルー・オーシャン戦略
レストラン激戦区の赤坂見附の駅前を歩いていると、昼だろうが夜だろうが常に人で満杯のカジュアルレストランがある。カジュアルといっても、それはラーメンでもなければたこ焼きでもない。真昼間から若いOLが楽しむのは、ミシュランレベルのシェフによる料理を格安で提供する、「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」だ。
「俺の~」と名付けたレストランを展開する“俺の株式会社”。一流シェフの手による高級食材をふんだんに使った料理を、立食スタイルかつ圧倒的な低価格で提供することで、2011年の第1号出店以来、高い人気を誇っている。同社はこれまでの飲食チェーンとは異なる、新しい価値を消費者に提供することで成功を果たしてきた。
「ものまね」だらけのレッド・オーシャン業界で、
一流シェフを低価格レストランに集めた一言
飲食業は「ものまね」が横行する業界だ。回転寿司店しかり、牛丼店しかり。どれだけユニークな業態やメニューを開発しても特許で守られるわけでなく、当たったものはすぐに真似をされる。坂本はこれまでにない価値を組み合わせた、他社が簡単に真似のできないビジネスモデルの構築を目指した。
飲食店ではどんなにいい食材を使っても調理の腕がなければおいしい料理はつくれない。しかし坂本は料理人ではなく自らメニュー開発も調理もできないため、まず腕のいい料理人を集める必要があった。しかし、業界に人脈がないうえ、一流の料理人は経歴に傷がつくことを恐れて素人経営者が始める店では働きたがらない。
そこで、飲食業専門の人材紹介会社を集めて事業説明会を開き、将来の上場や海外出店などの構想を語って、料理のジャンルを問わずミシュラン店クラスで料理長を務めていたような人材の紹介を依頼した。料理人にはより好条件提示した。
それによって海外のミシュラン店や日本の名だたる和洋の一流店で働いていたシェフが集まった。旧態依然とした料理の世界の改革を図り、日本一の飲食チェーンを目指すという坂本の夢に十人ほどの実績ある一流シェフが同調してくれた。彼らを説得する言葉として使ったのが「高級レストランに来る客はせいぜい人口の0.3%。一方低価格の店なら人口の8割を対象にできる。料理のプロとしてどちらにやり甲斐を感じるか」という一言だった。一流シェフを集めたことで、美味しい料理を提供する準備は整った。