食材比率を二倍にして勝負――豪華な内装に掛けるお金を、全部材料に費やしてみた

 ブルー・オーシャン戦略の重要な骨子の一つは、競合他社が提供しているが市場が求めていないものを取り除き、その分、本当に顧客が飲食に求めている価値の提供に注力することである。坂本は、店にお客がなぜ来るのかを考えた。そこで深く実感したのは、豪華な照明やゆったりしたソファもその要素には違いないが、基本的には「安くて美味いもの」を食べたいということであった。

 飲食業の常識では、食材比率がおおむね30%、人件費率も同じく30%が目安となる。売上高に占める食材原価と人件費比率を表す指標であるFLコストが60%以下であれば利益が出るとされる。しかし、わずか30%の食材比率で本当においしいものを食べたい客が満足してくれるのか。坂本はまずその常識に疑いをもち、食材比率が倍の60%であっても利益を生み出す方法を編みだそうとした。

 さらに、業界をリサーチして気づいたのは、多種多様の飲食店がひしめき合うなか、客単価5000円前後の店が少ないということだった。特に東京では5000円から1万円の価格帯にぽっかりと穴があいている。この価格帯にチャンスがあると考えた。

繁盛店からヒントを得て、業界の「当たり前」を取り除く

 坂本はさらに、様々な業態の繁盛店を視察した。まずベンチマークすべき店として注目したのは、東京の下町にある立ち飲み割烹の「かねます」だ。

 小さな店だが、午後4時の開店と同時に満席となり、閉店近くまで行列が続く。店内の客は肩を寄せ合って食べていた。主人は京都の老舗割烹で料理長を務めた経歴をもち、本格的な和食を一流割烹の半額以下で提供している。客単価は5000円程度で、滞在時間はせいぜい1時間。回転率の高さで採算を取っており、坂本はこの店からヒントを得て、高級店と立ち飲み店を合体させたレストランを発想する。

 これらを参考に、「俺の~」では、立食スタイルを基本にし、「客に着席してゆっくり食事をしてもらう」という要素を取り除いた。また豪華なシャンデリアや2枚重ねのテーブルクロス、銀の皿など、業界常識として料理以外のものについていた要素を省くことで固定費を削減し、圧倒的な低価格を実現したのである。