社会保障と税の一体改革に動き出した民主党政権は、3月中に消費税増税関連法案を閣議決定し、国会に提出する方針だ。消費税増税に関しては、野党のみならず与党内からも異論が噴出しており、国会は紛糾しそうだ。民主党が唱える一体改革にはどこに課題があるのか。また、改革の理想の姿とはどんなものなのか。政府税制調査会専門家委員会で委員長を務め、一体改革の議論に深く携わった神野直彦氏が、詳しく評価する。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
私が委員長を務める政府税制調査会専門家委員会は、政府の諮問に応じて、租税制度に関する基本的事項を調査・審議し、答申を行なっている。民主党が閣議決定し、今国会で議論されている社会保障と税の一体改革にかかわる抜本的な税制改革については、これまで政府へ中間的報告を2度提出した。
現在の日本は、経済構造などの歴史的な大転換期にいる。こうした転換期には、租税体系の大改革を行なう必要がある。日本では、世界恐慌が起きた後、太平洋戦争直前の1940年、そしてシャウプ勧告が出された終戦後の1950年代に、それぞれ抜本的な税制改革がほぼ10年ごとに行なわれた。
今回、委員会が民主党から受けたオーダーは、「シャウプ勧告に匹敵するような抜本的な税制改革をやりたい」というものだった。我々は、1つの体系的な思想に基づいた改革案ができないかと議論した。
租税調達能力や所得再分配機能を回復
理想の「一体改革」を進めるポイント
我々が理想とする一体改革のポイントは、大きく7つに分けられる。
第一に、低すぎる租税調達能力を回復すること。OECD諸国における対国民所得比での租税負担率を見ると、世界最高レベルとなるデンマークの約7割に対して、日本は最低レベルとなる2割程度だ。税の調達能力が落ちた原因は、バブル崩壊の景気悪化と減税をやり過ぎたことだ。
日本の歳出と税収の推移を折れ線グラフにすると、そこには「ワニのアゴ」と呼ばれる乖離が見られる。歳出の折れ線グラフをワニの上アゴ、税収のそれを下アゴに例えれば、歳出が右肩上がりで税収が横バイの日本は、税金不足が進行して、まさにワニのアゴが開き過ぎ、外れたような形になっている。大きく変わりつつある世の中を支えるためにも、租税調達能力の向上が必要だ。