第一章
8
翌日、国交省につくとすぐに森嶋は矢島に呼ばれた。
矢島の後について局長室に入ると、ソファーに座っていた渡辺国交大臣が顔を上げた。
「国交省に首都移転チームを立ち上げることになった。きみにはそこに移ってもらう」
行きがかり上予測していたことだが、実際に言われるとやはり動揺した。森嶋は動揺を隠そうと渡辺から視線を外した。森嶋が調べた限り、実現の見込みのない構想をまとめ上げる閑職にも等しい部署だったのだ。
「どうした。不満かね」
黙っている森嶋に国交大臣が聞いた。
「首都機能移転室の復活ですか」
「そうではない。新たに作るものだ。ただし今まで築きあげたものは参考にはしてもらいたい。ところで、チームリーダにはこの男を考えている」
国交大臣が矢島に目配せをすると、矢島は森嶋にファイルを渡した。
「村津真一郎。首都機能移転室の前の室長ですね。村津氏は数年前に退職しているはずです」
「早期退職だ。現在、62歳。現在は長野に住んでいる。早速だが今日、会って来てくれないかね。すでに連絡はいっているはずだ」
「今日ですか」
「なにか用でもあるのかね。まだ配属は決まってないはずだが」
「会ってどうするのですか」
渡辺がわずかに眉根を寄せた。
「首都移転チームを作ることになった経緯を話してほしい」
「本人が乗り気ではないのですか」
「切れ者だが変わり者でね。3年間室長をやったが、自分が無駄な時間をすごしたと思っている。日米の二つの論文について話し、アメリカ側の話も伝えてくれ」
「すべてを話した上で就任を頼むのですね」
矢島は頷いた。
おそらく、村津には局長が就任を要請したのだ。本来ならば飛んでくるところだ。会いに行かなければならないとは、村津はチームリーダー就任を断ったのだろう。
森嶋は気が重かったが、頷かざるをえなかった。