作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回は「マイナス金利の世界と資産運用」について考える。

もっとも懸命な「投資法」は?

 トランプ新政権の経済運営(規制緩和)を期待して、大統領就任直後にダウ平均株価(ニューヨーク株式市場)は史上最高値を更新しました。日本の株価がバブル最高値(1989年12月29日の3万8957円)から30年ちかくたってもその半分程度で低迷していることを思えばアメリカ経済の底力は明らかですが、しかしそれと同時に次の事実も指摘しておく必要があります。

 1980年のニューヨーク株価(最高値)は964ドルで、それが20年後の1999年には1万ドルと10倍になりました。このペースで株価が上昇すれば2020年には10万ドルになるはずですが、実際には16年かかってようやく2万ドルです。一進一退を繰り返すばかりの日本株よりはずっとマシですが、21世紀になってアメリカ経済も株価上昇率が大きく失速した感は否めません。

 これが「長期停滞」と呼ばれる現象で、このことは世界的に金利が大幅に低下していることからもわかります。低金利とは債券価格が上昇することですが(詳しい説明は金融の入門書をどうぞ)、なぜ投資家が債券を買うかというと、ほかに投資する対象がないからです。

 債券市場と株式市場(あるいは不動産市場、資源市場)はトレードオフの関係にあります。株式や不動産、資源価格が上がると予想すれば、投資家は債券を売って資金を調達し、積極的に投資しようとするでしょう。そうなれば債券価格は下落し、金利は上昇します。

 これを逆にいえば、ゼロ金利やマイナス金利というのは、投資家が株や不動産にはお金を投じる価値がないと考えている証拠です。

 より正確には、儲かることもあるかもしれないが、大きく損をするリスクも考えれば、ゼロ金利や(すこしずつ確実に損をする)マイナス金利の債券にお金を預けておいた方がまだマシだと判断しているのです。