「いったい何歳から子どもにはスマホやタブレットを持たせてもよいのか。動画やゲームに依存してしまったり、成長面で問題が出る心配はないのか」。せがまれればためらいながら使わせてはいるものの、漠然と不安と抵抗を感じている親は多い。世界中の子どもの親が直面するこの問題に、科学的にはっきりとした指針はないものなのか。 世界的サイバー心理学者として知られるメアリー・エイケン博士が、デジタル・テクノロジーが人間にどのような影響を与えるか、とりわけ子どもの成長への影響を発達段階ごとに見ながら、子育ての中での影響を科学的にまとめた話題の新刊『サイバー・エフェクト 子どもがネットに壊される――いまの科学が証明した子育てへの影響の真実』から、一部抜粋して紹介する。

苦しむ人を背景に入れて笑顔の自撮り

 米フロリダ州コーラルスプリングス・チャーター・ハイスクールの教室で、教師のスサーナ・ハレックは苦しみにうめいていた。妊娠7ヵ月だった彼女は、突然陣痛に襲われたのである。ハレックはデスクの椅子に座り、痛みに耐えようと苦しんでいた。その口と目は大きく開かれ、片手は眉に添えられている。そのとき、彼女の生徒の1人、マリク・ホワイターが携帯電話を取り出した。

 目的は「自撮り」だった。

 ドレッドヘアにキャップ、大きなサングラスという姿のホワイターは、カメラに向かって大きな笑みを浮かべ、背景には痛みで苦悶の表情を浮かべる彼の教師が入るようにした。そして写真を撮り、それをこんな解説付きでツイートしたのである。「陣痛が来た先生と一緒に自撮り中」自撮りは「自意識」という言葉に新たな意味をもたらした。この一瞬で行われる、見たところ何の害もなさそうな自画像の撮影(スマホやウェブカメラを使って行われ、ソーシャルメディアを通じて共有されることが多い)は、多くの機能を有している。

 それは、公に見せる自分の姿を良く見せるものであり、何かを達成したときに自慢するものであり、ユーモアを伝えるものであり、世界に皮肉を示すものであり、何らかのパフォーマンスを演じるためのものである。カメラを搭載した携帯電話が普及したことで、自分の写真を撮影したり、削除したり、加工したり、シェアしたりすることが簡単にできるようになった。

 マリク・ホワイターが行った、ありえない人物と一緒に自撮りするという行為は、一部の子どもたちから「フォトボム」〔自撮りの背景に驚くようなものを入れること、または入ってしまうこと〕と呼ばれている。それはいたずらや冗談の一種だ。フォトボムを撮る瞬間というのは、観光客が記念写真を撮るようなものと言えるだろう。「私はここにいた」と示したいわけだ。しかしこの場合、背景に映っていたのはラシュモア山やナイアガラの滝などではなく、教師であるハレックの苦しむ姿だった。

 ホワイターの行為を何と呼ぼうと、ハレックが検査のために病院に担ぎ込まれるまでに、彼の写真はソーシャルメディア上であっというまに拡散し始めた。最初はコーラルスプリングス地域内の学校だけだったが、すぐにそれを越えてシェアされるようになった。そして夕方までには、数千人によってリツイートが行われるという、いわゆる「バイラル(ウィルスのように急速に拡散する)」状態になった。

 後に地元テレビ局の取材を受け、写真を撮ったときどのような心境だったのかと聞かれたホワイターは、単に予想もしない出来事を、自分のために、そして「彼女のために」記録しておきたかったのだと答えている。彼によれば、ホワイターはハレックに対して、カメラに向かって笑うように求めた。それを拒否されたために、仕方なく彼女が「油断したところを」撮影するしかなかったのだそうだ。