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液晶テレビの不振にあえいでいたシャープが、ついに台湾資本の受け入れを決断した。
「グローバル市場の戦いにおいて、単独での垂直統合には限界がございました」
3月27日夕方、都内ホテルで開かれた緊急会見。4月1日付で新社長になる奥田隆司常務は、約10年間、成長をけん引してきた“AQUOS”など液晶テレビの「垂直統合モデル」が、完全に瓦解したことを認めた。
2012年3月期は約2.5兆円の売上高に対して、過去最悪の2900億円の最終赤字を見込む。約3800億円をつぎ込んだ最新鋭の液晶パネルを作る堺工場も、今年1月から50%以上の減産中。「このままの状態が続けば、巨額の減損処理を迫られる」(証券アナリスト)という窮地に追い込まれていた。
そこで事実上の“救済”を買って出たのが、アップルやソニー、任天堂などの商品を作るEMS(電子機器受託製造)世界最大手の台湾・鴻海精密工業グループだ。
シャープ株の約9.9%を第三者割当増資で引き取り、筆頭株主になる。さらに堺工場の共同運営のためにも出資して、計約1330億円を拠出するのだ。
資本提携に当たって、両社の狙いが一致するのは、アップル向けビジネスの拡大だ。
鴻海グループは中国に巨大な工場群と100万人近い労働者を抱え、iPhoneやiPadの製造組み立てを大量に引き受ける。売上高も9兆7000億円(11年12月期)のうち、約4割がアップル向けといわれる。
シャープにとってもアップルは“命綱”だ。赤字の液晶事業にあって、高い技術が必要なスマートフォン用の高精細な中小型液晶パネルだけは、高い利益を確保している。亀山第1工場は目下アップル向けの生産ラインが導入中で、第2工場も新型iPad用の液晶パネルの量産に入る。
「アップルがいずれ発表するテレビ用モニターも、一丸となって受注するのが狙い」(業界関係者)。その際の最大のライバルが、サムスン電子など絶好調の韓国メーカーであり、「日台連合」への期待が膨らむ。
一方、長期的には「シャープが技術ごとのみ込まれるのでは」との指摘も上がっている。
例えば、テレビ事業ではシャープが国内外5拠点に構える組み立て工場について「鴻海グループの工場のほうが、コスト競争力は高く、いずれ統合されるのでは」(証券アナリスト)との見方が強まっている。
さらに「(シャープが赤字の)太陽電池事業も、高い関心を持って交渉してきた」(関係者)といい、テレビ事業にとどまらない、さらに踏み込んだ事業提携が成立する可能性が高い。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)