玩具箱の中に、こんな楽しい蕎麦屋があったような気がします。

 蕎麦屋以上の夢を探す「あめこや」に、蕎麦屋以上の客が集まっています。時代がちょうど新しいものを求めているタイミングなのでしょうか。

 時代の先の先を見通すようなオーラが見えてきました。

(1)店のオーラ
蕎麦屋を興すまでの物語がある

ヒットメニューの蕎麦2種盛り、産地違いの蕎麦で色合い、香り、味わいの違いを楽しめます。

 トレンド雑誌の1ページを切り取ってきたような、そんな店が豪徳寺の商店街のなかほどにあります。蕎麦屋というよりはカフェや花屋さんに遊びに来たような気持ちにさえなります。

 30代前半の若夫婦が、まるで玩具遊びをしているように、客を迎えてくれます。

 だが、蕎麦は美味いし、料理は思いがけないほど斬新ですから、いつも客で一杯です。

 客たちは今日も決まったように笑顔で店に入ってきます。

店主の上田さん、数店の飲食店を経験し、友人と新規店を立ち上げたことも、今に生かしている。

 「あめこや」の亭主、上田善宗(よしむね)さんの実家は福島の酒造り問屋です。東京で何不自由のない大学生活を送っていた頃、ふっと料理人になりたい夢が膨らみました。

 親を無理やり説得して大学を中退して、料理専門学校に入りました。

 卒業後は和食レストラン、カフェバー、蕎麦屋、創作料理、居酒屋など、いくつもの店を経験しました。

 そのジグザグした道程の中で、上田さんの胸の奥に見えてきたのは、“料理をゆったり味わい、酒を楽しめる”蕎麦屋を興す夢でした。

 上田さんが当時の面白い話を披露してくれます。

 知り合いを介して、ギャラリーカフェで一番暇な水曜日の昼に、蕎麦を出してくれないか、と声が掛かりました。上田さんの蕎麦がなんと画廊にデビューしたのです。すぐに口コミに乗って、客で溢れかえるようになりました。

 「絵よりは蕎麦が完売になることが多くて」上田さんが笑います。
この時、ようやく蕎麦屋開業への自信を持ち、店舗探しの準備に入りました。

 どんな店を目指したのですか、との質問に、

 「カフェのような、ダイニングのような、料理屋のような……」そう答えます。