「発言小町」は、読売新聞のサイトにあるBBS(電子掲示板)である。前回、簡単に紹介したように、主として女性からのさまざまな分野への投稿とそれに対するレスポンスからできている。月間ページビューは、4000万に迫っているそうだ。これはウェブ新聞の興味ある可能性の方向を示していると私は思うので、以下にやや詳しく論じよう。
そこで取り上げられているテーマとしては、まず、「嫁と姑」のような古典的テーマや、街角での観察などがある。これらは、「ねえ、聞いてよ」ジャンル、と呼ぶことができるだろう。つまり、昔からある井戸端会議の話題だ。
私が面白いと思ったのは、「どんな映画DVDを見たらよいか」という質問に対して、じつにさまざまな答えが寄せられていたことだ。これは、「ねえ、聞いてよ」ではなく、「教えてよ」ジャンルだ。人は、教えることに大きな喜びを感じるものだから、助けを求めている人がいれば、先生役は殺到するのである。
もちろん、こうした匿名掲示板サイトは、これまでもウェブ上にたくさんあった。その代表は、「2ちゃんねる」だ。発言小町がそれと異なるのは、大新聞のサイトであり、しかも投稿に対してある程度の管理がなされていることだ。このため、人々は安心してこのコーナーを訪れることができる。それが「2ちゃんねる」的な掲示板との大きな違いである。また、アクセスが桁違いに多いという点で、個人のブログとも違う。
人間の気持ちは複雑だ。建前だけの優等生的発言を聞いても面白くない。しかし、匿名で何の制約もない罵詈雑言を聞くと、それが自分に向けられたものでなくても、嫌な気持ちになってしまう。自由と管理の間のバランスを巧みにとるのはきわめて難しいことだが、多くの人がそれを求めているのも、事実である。それを実現する方法として、「信頼される主体がスクリーニングを行なうBBS」は、1つの解になっているようだ。
繰り返せば、こうしたコーナーに必要なのは、読者の参加と、ある種のオーソライゼーションである。しかも、かなりのアクセスがないと、機能しない。これらの条件をすべて満たす主体は、たぶん日本に数十しかないと思う。新聞社のサイトは明らかにその条件を満たしている。これは、他が追随できない新聞社の圧倒的な強みなのである。
ウェブ上の新聞は、これまでもさまざまな試みを行なってきた。しかし、それらは、「新聞のウェブサイトでなければできない」ものでは必ずしもなかった。競争相手は、必ず存在したのである(場合によっては、競争相手のほうが強い。たとえば、ウィキペディアがある側面で新聞的な機能を持ち始めているのがその例だ)。しかし、発言小町的なコーナーは違う。これこそが、ウェブ新聞が最も強みを発揮できるところなのである。
なぜ類似コーナーが
他に現われないのか?
ところで、私が知る限り、他の新聞社のサイトには、この類のコーナーはない。これは、不思議なことだ。なぜ他の新聞・雑誌等のウェブサイトは、発言小町の真似をしないのだろうか?