理想とのギャップに
追い詰められていく妻
(うわぁ遅くなっちゃった。まずいなぁ)
真子さん(仮名・30歳)は駅から保育園への道を懸命に走った。会社を出るのがギリギリだった上に、電車が遅れてしまったのだ。
午後7時15分過ぎ、園に到着すると、息子(5歳)がポツンと1人で玄関に立っていた。家に持ち帰らなければならないお昼寝用の布団カバー等が手製の布バッグにまとめられ、肩にかけられていた。通常は保育室まで迎えに行き、真子さんがまとめるのだが、ほかの園児はもう全員帰宅したからだろう。園舎はほぼ真っ暗。保育士は戸締まり確認にでも行っているようだった。
「お帰り!」
息子はほっとした顔で、抱きついてきた。薄暗い玄関に1人で立っていた姿は、小さな姿を一層小さく感じさせ、ズキンと胸が痛んだ。
「ごめんね、遅くなって。お母さん、あなたにとっても会いたかったよ」
ぎゅーっと抱きしめ、頬を撫でながら謝る。
「大丈夫、平気だよ。僕、お歌を歌っていたから」
健気さに涙が出そうだった。それにしても、独りぼっちで立たせておくなんて、体罰みたいじゃないか。布バックだって、そばに置いておけばいい。わざわざ重たいものを肩にかけさせるなんてどういうことだ。