ガス化技術の可能性を感じる一方で、ガス化後に残るタールや、すすの問題を知り、事あるごとに「この問題を何とか解決出来ないものか」と、ずっと考えていたそうです。三井物産退社後、日本ファーネスに来てからは、元来の技術者としての血が騒ぎ、自ら高温水蒸気ガス化技術の開発にあたったのです。

 商社にあっても、技術者としてのアイデンティティは、ずっと変わらなかった保田さん。「課題を知った以上、それを何とか解決したいと思うのが技術者としての正義感ですよ」と話してくださいました。

 このようにして、技術的な問題はクリアしましたが、まだ実用化に向けた現実的な課題が残っていました。それが小型化、低価格化の問題です。この問題を解決するために立ちあがったのが、保田さんの東京工業大学時代の仲間たちでした。

「小型化、低価格化」の壁を前に現れた
頼りになるサポーターとは?

 清田憲正(66)さんは、東京工業大学卒業後、王子製紙に入社し、技術畑を歩んできました。清田さんは、「技術家(ぎじゅつや)は、企業を卒業した後は、一人じゃ何もできない」「でも逆に、それぞれ企業での経験を持ち寄れば、きっとおもしろい活動が出来る」と言います。それを実現すべく、王子製紙退社後は、NPO法人・蔵前バイオマスエネルギー技術サポートネットワーク(K-BETS)という、東京工業大学OBを中心としたオープンな技術者集団に参画しています(*2)。

 木材の燃料化手法としてのガス化に関心を持っていた清田さんは、大学の先輩である保田さんから、高温水蒸気ガス化の説明を聞きます。でも、説明を初めて聞いた時は、全く信用出来なかったそうです。自らの経験則から「1200℃の水蒸気なんか出来やしない」、と考えたからです。

 しかし、実際に保田さんが開発した設備を見た瞬間、「技術家の直感として、これはビジネスとして必ず成功する」と確信したとか。そこからは、技術家としての血が騒ぎ、いまや清田さんは、超高温ガス化装置の量産化に向け、製紙メーカーで培った製造コスト削減の手法を、日本ファーネスに指導しています。

 また、清田さんが所属するK-BETSのメンバーの中には、自動車会社の元役員の方などもおられ、「構造は四画よりも、丸い方が加工し易いのではないか」、「部品を別々につくるよりも、金型をつくって一体化した方がコストが安くつくのではないか」、「鉄板の厚さは、半分でよいのではないか」など、さまざまなアドバイスをしてくれるそうです。日本が世界に誇るモノづくりのノウハウが、このガス化技術に生かされようとしているのですね。

 何と言っても、戦後のトランジスタラジオから、現代の携帯電話まで、小型化する技術は日本のお家芸ですから、超高温ガス化装置の小型化においても、K-BETSのサポートは、大いに期待されるところです。

「“人”のネットワーク」から生まれる
未来のビジネスのヒントとは?

 技術のブレークスルーは、今回のケースのように、「別用途の技術転用」から生まれることが少なくないと思います。一方、世の中に存在しない新しい仕組みづくりを求められることの多い環境ビジネスにおいては、自社だけでは解決できない問題を「アライアンスの構築」により解決する必要があることは、これまでの連載でも述べてきた通りです。

 このアライアンスパートナーとは、企業の場合もあるでしょうし、今回のケースのような、個人的なネットワークのケースだってあるのです。でも、そこに共通するのは、いずれも“人”ありきだと言うことです。逆に言えば、「所属なんかは、実は関係ない」とも言えるかも知れません。

 これまで企業という枠に囲われていた、団塊の世代の方々の技術、ノウハウが、企業という枠を越えて結びつき、ビジネス化が困難と思われていた分野にも新たな息吹を与えることだってあるのです。

 いま、保田さんと清田さんは、地方の山中にこのガス化装置を持ち込み、その土地で伐れた木材を燃料とする、「エネルギーの地産地消」モデルを検討中です。そのためにも、「小型化」が命題となるのです。未来のビジネスのヒントは、最新鋭の技術開発のみならず、これまで日本の技術力を支えてきた、こうした団塊の世代の方々の技術、ノウハウにもあるのかも知れません。

(*1)日本ファーネス株式会社
(*2)NPO法人蔵前バイオマスエネルギー技術サポートネットワーク

【取材協力】
日本ファーネス株式会社 取締役 技術本部長 持田晋さん

【参考文献】
『世界を制した「日本的技術発想」』志村幸雄(著)、講談社、2008年

環境フロンティア2009