異例ずくめの公表の陰で
伏せられた「不都合な事実」

 裁量労働制が乱用されやすいことはかねて指摘されていたが、大手企業で乱用の実態が明らかになるのは初めてと言っていい。

 新聞各紙が大きな扱いで報じることになったが、そもそも「特別指導」が、指導対象になった企業名も含めて公表されたのは異例のことだ。

 全国の労働基準監督署は、労働法令に違反した企業に対して年間ほぼ10万件もの是正勧告をしているが、原則として個別の是正勧告をしたかどうかは明らかにせず、当然、企業名も公表しない。

 厚労省が例外的に公表すると定めているのは、原則として以下の2つのケースだけだ。

(1)法令違反した企業を刑事事件として立件した場合
(2)2017年1月に出した「企業名公表」のルールに当てはまる場合

 野村不動産による裁量労働制の乱用は悪質だが、現時点では立件されていないので(1)には当てはまらない。

(2)は「社員が過労死・過労自殺」したことい加えて、「月100時間以上の違法残業を社員10人以上にさせた」といった悪質なケースが一年以内に見つかった場合に企業名を公表するもので、「2アウトルール」と呼ばれるが、野村不動産はこの基準にも当てはまらない。

 過去に特別指導が行われたのは、2016年の電通事件の時だけで、この時も記者会見では公表していない。特別指導した個別の企業名を記者会見で公表するのは、野村不動産のケースが初めて。

 極めて異例の対応で、しかも肝心の社員の過労自殺の事実は伏せられたままの公表だった。

 26日の会見では、特別指導の根拠法令などを問う質問も出たが、鈴木伸宏・労働基準部長は「何か法令に基づいてやっているものではない」と回答。東京労働局長の独断で行われた指導だったことを明らかにした。

 特別指導の際に、労働局内でも厚労省内でも決裁文書が作られていなかったことも、後に明らかになっている。労働局の一局長が、民間企業に対して、その権限を恣意的に行使していた可能性が非常に高いのだ。

加藤厚労相は真逆の国会答弁
批判を抑える「好事例」を準備?

 何を狙って野村不動産への特別指導が公表されたのか。

 それは、その後、国会答弁で加藤厚労相が、裁量労働制の乱用を取り締まった事例として野村不動産に対する特別指導のことを何度かあげていることがヒントになる。