軍艦「筑波」による航海実験で、大好評を博したのが、留学先のロンドンで覚えた味――イギリス海軍で提供されていたカレー風味のシチューに小麦粉でとろみを付けて、たんぱく質を多く含んでいるということで麦と米を半分ずつ混ぜた麦飯にかけた「ライスカレー」だった。麦を混ぜたおかげで期せずしてビタミンB1の不足も補え、結果、明治18年には海軍の脚気の罹患者数は41名、死亡者数なし、と劇的に改善。海軍は脚気の撲滅に成功する。

 この時に採用されたレシピが、海軍と共に歩んできた町・横須賀の名物「よこすか海軍カレー」のルーツとなり、今や一番人気のご当地カレーとして、日本中で愛されている。

 さらにもう1つ、『カレーライスと日本人』(森枝卓士著、講談社学術文庫)に興味深いエピソードが紹介されている。

〈明治17(西暦1884)年の12月27日。明治天皇はお昼ご飯にカレーを食べている。デザートにミルフィーユというフランス料理のコースの食事だが、その中に鴨肉のカレーがあった。

 場所は延遼館。日本初の西洋石造風建築物にして、鹿鳴館以前の社交の場。浜離宮内にあって、多くの国賓を迎えた。東京都が2020年のオリンピックまでにこれを復元して、賓客を迎えるということで、その名がまた出てきている。

「御陪食」、つまり一緒に食事をしたその相手も分かっている。伊藤宮内卿。あの伊藤博文である。伊藤が初代総理となるのが、1年後。内閣制度さえなかった時代、伊藤博文と明治天皇が、一緒にカレーを食べていたということなのである。カレー好き、歴史好きには、ちょっとした驚きのエピソードではあるまいか〉

 高木の仮説を信じ、明治天皇につないだのは伊藤博文である。おそらく食事の席は、海軍カレーと高木の話題で盛り上がったに違いない。

現代なら「カレー男爵」と
呼ばれたかもしれない

 明治天皇にも認められた海軍の脚気対策は、陸軍にはなかなか採用されなかった。一説には、いわゆる「メンツ」が邪魔をしたと考えられている。