「この技術がダイヤの原石かもしれないし、そうでないかもしれない。これから役に立ち、光り輝くよう磨き上げていきたい」

 田中が実感するのは、“発展途上”の技術に関わる楽しさだ。

 量子アニーリングが使える技術として世に広まるためには、ハードウエアの開発、ソフトウエアの開発、そして効果的なアプリケーション探索の3側面の開発がどれも欠かせない。三つの連携なしには前へ進んでいかない。

 田中がそのための突破口と位置付けるのが、企業との共同研究だ。「コラボレーション」が鍵を握る。企業は実際にこういうところで困っている、こういう問題が解けたらいい、と知恵を集めることが、量子アニーリングに磨きをかけるのである。

 15年にはリクルートコミュニケーションズとデータ分析手法、精度の高い広告配信の共同研究をスタート。自動車の経路探索と工場のIoT化などをテーマとしてデンソーと、また対話をはじめとしたコミュニケーション分野で人工知能ベンチャーのネクストリーマーなどとも共同研究を始めている。

 ハード面では、富士通研究所と量子アニーリングと似通ったデジタルアニーラーに関する共同研究を進めており、日立製作所とはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトで手を組む。ソフト面でも高速化支援のフィックスターズと共に取り組んでいる。

 田中は「数年後には、量子アニーリングマシンを使った応用事例を実現させたい」と前を見据える。

 それにはより一層のハードの進化、量子アニーリングマシンを補う周辺技術とのマッチングなどの難関が立ちはだかっている。

 量子アニーリングの基礎になっているのは、「イジングモデル」と呼ばれる統計力学モデルだ。田中は、企業が抱える組み合わせ最適化問題をこのイジングモデルで表現する数理的な手続きのノウハウにたけている。

 だが、量子アニーリングを世に広めるには、個人の力では及ばない。「これからも企業の人たちと一緒にやっていきたい」と語るように、さまざまなシーンで活用される具体例を、企業と共につくり出していくしかない。

 企業と共に考え、悩み、知恵を出し合っていく。田中の夢がかなう日は、田中自身を“ハブ”としたコラボレーションの先にある。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小栗正嗣)

日本人「量子」研究者が挑む“組み合わせ最適化”という難問

【開発メモ】量子アニーリング
 巡回セールスマン問題、物流の経路探索といった組み合わせ最適化問題は、イジングモデル(左写真)で表現し、それを量子アニーリングマシンの量子ビットに埋め込んで、量子アニーリングを行い、解答を得る。右写真はD-Waveが開発した量子アニーリングマシンの1152量子ビットのチップ。マシン内部は絶対零度に近い温度に管理されている。