官邸からの帰り、高脇は無言だった。
車が走り出すと、高脇は近くの地下鉄の駅で降ろしてほしいと運転手に告げた。
車を降りてから、森嶋は高脇をコーヒーショップに誘った。
森嶋が驚くほどに、高脇は沈んだ、何かを思い詰めたような表情をしていたのだ。このまま帰したら、何かとんでもないことを起こしそうな気がしたのだ。
「森嶋君、きみはどう思う」
店に入りテーブルに座るなり高脇が聞いた。
「どう思うって、総理が言ったことか」
「あそこにいた人たちは、僕に何も言うなって言いたいんだろ。発表するなって」
「政府が強制する権利はないよ。長年の研究成果だ。きみの思い通りにやればいい」
「それが出来ないから困ってるんじゃないか」
「結果に自信がないのか」
「そうじゃない。発表した結果が怖いんだ」
確かにマスコミはこういう発表には過剰反応を示す。とくに今回は、緊急性が高い衝撃的な内容だ。マスコミは飛び付くに違いない。そして、現在の世界と日本の状況からして、かつての同様な発表以上に影響は大きくなるだろう。
「これはまだ極秘になっているんだが」
森嶋はそう前置きして、アメリカ政府のシンクタンクが発表した日本発の世界恐慌の話をした。高脇は無言で話を聞いている。
「本当にそんなことが起こるのか」
「状況から考えると、そんなに夢物語でもない」
「難しいんだな。僕は自分の研究で少しでも被害が軽減出来ればそれでいいと思っていたんだ。それが日本発の世界恐慌の引き金になるなんて」
「そうと決まったわけじゃない。その可能性があるというだけだ」
森嶋と高脇は地下鉄の駅で別れた。