米国では、トランプ政権の方針に州政府が反旗を翻す局面が目立っている。州政府の独自性は米国の特色だが、連邦政府と州政府の行き過ぎた対立が、ビジネス界の悩みのタネになりつつある。(みずほ総合研究所欧米調査部長 安井明彦)
トランプ政権に反旗を翻す州政府
スポーツ賭博解禁が持つ「深い意味」
2018年5月14日、米最高裁が全米の州にスポーツ賭博の解禁を認める判決を下した。ビジネス界には朗報であり、早速カジノ業界の株価が急騰している。
中でも注目されているのが、eスポーツ賭博への影響である。今回の判決では、対象となるスポーツの領域が明確ではない。そのため、コンピュータゲームの対戦競技であるeスポーツについても、賭博の対象として認められる可能性がある。
eスポーツ賭博では、そのプラットフォームを提供するユニクーン社が、2017年のICO(新規仮想通貨公開)で3100億ドルを調達するなど、今後の成長への期待が高まっていた。ユニクーン社のCEOは、今回の判決で「私たちの夢が現実に近づいた」と、同社のブログに記している。
スポーツ賭博解禁の報にビジネス界は沸き立っているわけだが、実はこの判決には全く文脈の違う重要性がある。それは最高裁が、連邦政府と州政府の権限争いに関し、州政府を支持したという事実である。州政府の独自の動きが強まれば、全米統一のルールは見通し難くなる。ビジネス界としては、難しい対応を迫られるリスクがある。
スポーツ賭博を巡る裁判は、州政府と連邦政府の争いだった。連邦政府を訴えていたのは、ニュージャージー州である。1992年制定の法律でネバダ州以外でのスポーツ賭博を禁止してきた連邦政府に対し、ニュージャージー州は「スポーツ賭博解禁の是非を決める権限は州政府にある」と主張した。今回の判決で最高裁は、スポーツ賭博の禁止は連邦政府による越権行為だったとして、ニュージャージー州に軍配を上げている。
最近の米国では、トランプ政権の方針に州政府が反旗を翻す局面が目立っている。両者の争いは裁判に持ち込まれることが多く、主戦場は司法の場となる。その頂点に立つ最高裁が州政府の権利を重視したという事実は、今後のトランプ政権と州政府の争いにおいても、州政府が有利となる可能性を示唆している。