◇曖昧になる運とスキルの線引き

 かつてカジノにおけるイカサマの定義は単純明快だった。ディーラーが弱い手札を配ったり、ルーレットのボールが止まったあとにこっそり自分の賭け金を増やしたりすると、イカサマだと見なされた。ゲームは「偶然性」に支配されており、不正を働かずにプレイしても、かならずカジノ側が勝つと考えられていた。

 しかしギャンブルにおける運や偶然性、確率の研究が進んだいま、「偶然性」の定義が難しくなっている。ゲームの勝敗を左右しているのは運なのか、スキルなのか。実のところその線引きは難しい。ランダム性の代名詞とも思われていたルーレットにも一定の法則があるし、スポーツベッティングはもはや投資と化している。

 成功したことはスキルのおかげ、失敗したことは運が悪かったせいだと私たちは考えがちだ。だが研究が進むにつれ、運とスキル、ギャンブルと投資の境界はどんどん曖昧になってきている。

 きちんと研究し、準備をすれば、勝てないゲームはほとんどない。しかし同時に、絶対に確実なシステムで儲かるということもほとんどない。ギャンブルで勝つには忍耐強くさまざまなことを試し、定石を無視し、自分の好奇心に従う創造性が求められる。

 完全無欠のギャンブルは、経験則や迷信の物語ではない。まぎれもなく科学の物語だといえよう。

一読のすすめ

『完全無欠の賭け』というタイトルではあるが、かならずしもギャンブルの必勝法が記されているわけではない。むしろこれはギャンブラーたちがどのようにゲームの仕組みを解明し、研究してきたかをまとめた科学史の物語である。要約ではそのなかでも転機となるポイントをいくつか選び出してまとめた。ギャンブラーたちのさまざまなエピソードや、統計学・物理学・確率論のより詳細な説明に関心がある方は、ぜひとも本書を手にお取りいただきたい。楽しい読書体験になることまちがいなしだ。

評点(5点満点)

総合4.0点(革新性4.5点、明瞭性3.5点、応用性4.0点)

著者情報

アダム・クチャルスキー(Adam Kucharski)

 1986年生まれ、ロンドン在住。ケンブリッジ大学で数学の博士号を取得。ロンドン・スクール・オブ・ハイジーン・アンド・トロピカル・メディスン(ロンドン大学衛生熱帯医学大学院)で数学モデリングを教えながら統計学や社会行動の論文を発表する一方、サイエンスライターとしてポピュラーサイエンスの記事も執筆している。2012年にはウェルカム・トラスト・サイエンスライティング賞を受賞した。

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