厚生労働省の調査によると「都市圏の成人の2.7%はギャンブル依存症の経験がある」らしい。約100項目の質問からなる面接調査の結果なので、信ぴょう性が高い推計値だろう。
ギャンブル依存が欧米で注目され始めた1960年代当時、診断名は「強迫性ギャンブリング」だった。不合理な行動をやめたいのにやめられず、繰り返してしまう「強迫性障害」の一つとされていたのだ。
その後、米国の「精神疾患の診断と統計マニュアル(DSM-3)」で正式に精神疾患として「病的ギャンブリング」が記載され、衝動性をコントロールできない障害と位置付けられた。
そして2013年に改定された最新のDSM-5では「ギャンブル障害」の診断名で、アルコール依存症と同じ「物質関連障害と嗜癖性障害」に分類された。
これに関しては専門家の間でも異論はあるが、アルコール依存症と同じく脳の報酬系が関連すること、また禁酒ならぬ「禁賭博」でイライラ、発汗など離脱症状が生じ、より大きな興奮を得るために「もっと、もっと」と大金を投じずにはいられなくなる「耐性」ができるなど、ギャンブル障害とアルコール依存症はよく似ている。
脳の報酬系が最も活性化するのは、勝った瞬間ではなく「勝つかもしれない」というひりひりするような「報酬予測」の段階。勝ちの快感はその「おまけ」にすぎない。興奮が収まれば即、次の報酬予測を渇望するようになる。あの快感の前では大損も家族の嘆きもささいなこと。逆に「次は取り返す」と深追いする理由になるだけだ。ギャンブル障害はギャンブルの一連の「プロセス」に対する依存症なのである。
ギャンブル障害の治療には「抗渇望薬」が使われるが(日本では未承認)、何より賭け事に近づかないことが重要。また、他の健康的な依存先へ代替することが病的依存の防波堤になる。
健康的な依存先? と思うが、仕事で利益や数字を追うプロセスも実は同じこと。庭で野菜を育て、収穫と称賛という報酬のために一喜一憂するのもいい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)