グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、「AI以後」「人生100年時代」の働き方を先駆けて実践する尾原和啓氏。その圧倒的な経験の全てを込めた新刊、『どこでも誰とでも働ける』が発売直後から大きな話題となっています。同書の刊行を記念しておこなわれた、新しい働き方についてのトークセッションの模様をお届けする記事の第3回をお送りします。
当日お集まりいただいたのは、プロノバ代表取締役社長の岡島悦子(@mayokajima)氏、株式会社ほぼ日取締役CFOの篠田真貴子(@hoshina_shinoda)氏、元コロプラ副社長で投資家の千葉功太郎(@chibakotaro)氏、ヤフーのCMO(チーフモバイルオフィサー)からLinkedin日本代表に転身された村上臣(@phreaky)氏です。
岡島氏と篠田氏はマッキンゼーつながり、千葉氏と村上氏は日本のモバイルインターネットの黎明期からの盟友で、尾原氏を含めて登壇者が全員モデレーター上手というトークセッションはおおいに盛り上がりました。(構成:田中幸宏)
「あなたのおかげで助かった」と言われる仕事が天職かも
岡島 自分で自分の人生を決めなければいけないことを、つらいと思うのか、それともラッキーと思うのか。私はもう大ラッキーだと思っているわけです。自分で決めれば、「お前はお前であったのか?」という問いにちゃんと答えられるから。
村上 でも、「何をすればいいのかわからない」という若者が多いんです。「僕に合っている職業はなんだと思いますか?」とかね。本当に困るんだけど、あんまり言うと、みんな凹んじゃうから。
岡島 私は正々堂々と「ごめんね、私は占い師じゃないから、わかりません」と言いますよ。ちょっと巫女っぽいところがあるから、まったく見えないわけじゃないんだけど(笑)。でも、やっぱりその人が何が好きかというのは、本人しかわからない。だから、私のアドバイスは、なんかそれに近そうなところにいて、やってみたら、何が好きかだんだんわかってくるということです。今日ここに座っている5人も、20代の頃に、いまこんな仕事をやっているとは誰も思っていなかったというのはたしかで。
全員 まったく思ってません!
岡島 尾原さんは尾原さん、岡島悦子は岡島悦子としか表現できない仕事なので。だから、「好きなことがわからない」という人は、好きなことを見つけるために、気になることにトライしてみるのがいいと思います。
篠田 そうは言っても、私から見ても登壇者のみなさんはキラキラだから、すぐに好きなことが見つかったんでしょうよ、と思うわけです。でね、最近聞いたいい話なんですけど、会社で庶務をしている20代の方で、それこそ専門知識が必要な仕事でもないし、何か人材市場があって買われるタイプの仕事でもない。でも、仕事でイベントの場数を踏んでいるうちに運営上手になって、ざっくり「こういうイベントをやります」と伝えておくだけで、たとえば直前になって登壇者の都合で時間が2時間ズレるというような緊急事態でも、よろしくやってくれるくらいになったんです。ここまでくると、1つの立派な才能です。仮に彼女がその会社から独立して個人事業主になったら、「尾原さん、今度イベントやるんでしょ」と、私は尾原さんにその人を紹介すると思うんです。
尾原 ぜひお願いします!
篠田 というように、仕事の形って、実は、既存の何かでくくれるものだけじゃない。誰かが「あなたのおかげで助かった」と言ってくれたところにヒントがあると思うんです。好きなことがすぐにわかる方はすごく幸運です。でも、そうじゃない方のほうがたぶん多くて、その場合は、誰かに喜ばれていることが1つのきっかけになるんだなと思います。
自己評価よりも他己評価
村上 LinkedInには、自分の所以(ゆえん)みたいなプロフィールをアップして、「自分はこういう人間ですよ」とプロフェスしているわけです。ところが、自分では気づかないような自分の特技とかスキルがあって、人から指摘されてはじめて気づくこともあります。
ぼくは(岡島)悦っちゃんのご縁で、3年くらい前からLinkedInのインターナショナルのヘッドを知っていて、来日するたびに相談に乗っていたんです。「なぜ日本ではLinkedInが伸びないのか、アドバイスをくれ」というので、「グローバルのやり方をそのまま持ってきてもダメだから、日本でちゃんとプロダクトがわかる人間がリードしないと無理ですよ」と言っていたわけです。
しばらくして、たまたまLinkedIn経由で某ヘッドハンターから「LinkedInがカントリーマネジャーを探している」というメッセージをもらったんです。ぼくはヤフーの役員だったし、転職する気はなかったんですけど、「ようやく俺の言っていたことがわかったか、じゃあ1回くらい話を聞いてやるか」くらいの超上から目線で、テレカン(電話会議)をしてあげたんです。そしたら、そこに悦っちゃんと共通の友人が出てきて、お前かよと。
岡島 アメリカ人なんですよ。
村上 彼とは3ヵ月くらいずっと英語でやりとりしていました。で、日本に来てもらって合宿することになったんです。レンタルルームを借りて、さあ、オフサイトミーティングをやるぞというときになったら、彼がおもむろに電話で「あ、すみません。コーヒーを3つ」と言ったんです。お前、日本語しゃべれるのかよと(笑)。
岡島 めっちゃ日本語上手なんです。
村山 それを悦っちゃんに報告したら、「知らなかったの? あいつ日本語ペラペラだよ」と言われて(笑)。人のスキルって隠されているな、プロフィールに書いとけよと思ったわけです。
尾原 それと関連して、LinkedInでは、他人が自分のスキルのバッジをつけてくれるんですよね。自己評価じゃなくて、他己紹介というものがあって、たとえばぼくだったら「スタートアップがいい」とか「インターネットマーケティングがわかっている」とか、スキルのバッジをつけてくれるんです。これでおもしろいのは、自分が思っているよりも、他人が付けてくれたスキルのバッジのほうが多かったりする。
村上 あと、自分でつけたバッジには、全然反応がなかったり(笑)。誰も認めてくれなくて、すごく寂しい思いをする。
岡島 私たちはどうしても、プロダクトアウト的に「私はこれができます」って言っちゃうんだけど、他人から想起されるときは、「検索ワードで入れられるのは何なの?」ということです。
村上 スキルのタグ付けの話ですよね。
尾原 「尾原 〇〇」というセカンドクエリーですね。2番目の検索ワードとして何を入れるか。
キャリアのタグは複数のかけ算で!
岡島 私がいつも言っている「キャリアのタグ」は、1つじゃなくても全然いいんです。いま、いろんな会社でやっているのは、会社の名刺にハッシュタグを付けようということです。
尾原 おもしろい!
村上 尾原さんの本も、ページの下にハッシュタグを付けているんですよね!
千葉 ぼくの名刺はハッシュタグが付いています。「#ドローン」とか。
岡島 ハッシュタグを入れておくと、たとえば、千葉さんなら「ドローン×モバイル×投資家」みたいなかけ算になっていくわけじゃないですか。それを見たみんなが「千葉さんって言ったらこれだよね」と納得するような、向こうから想起されるタグであることがすごく大事。
村上 でも、自分でタグ付けすると、誰にも認められなくて寂しいんですけど、それでもタグ付けしたほうがいいんですか?
岡島 「そのネーミングだからダメなんじゃない?」というケースもあるんです。
村上 響かないというか、わかりにくいということ?
岡島 わかりにくすぎるんです。私が「#ヘッドハンター」と書いても、たぶん他の人は「ヘッドハンターじゃないじゃん」みたいな話になるから。だったら、誰かが書き換えてくれればいいわけです。この話って、糸井さんがよく言っている「このおもしろいプロジェクトに誰を呼ぶか」という話とすごく近い気がします。
篠田 「呼ばれる人になろう」ということですね。
村上 第一想起される人。
篠田 呼ばれるときは、別にスキルである必要はなくて、「あいつがいると、なんかおもしろくなる」とか、「なんとなくミーティングがスムーズなんだよね」とかでもいい。
村上 野球でいうと、メジャーリーグでも愛されたムネリン(川崎宗則選手)みたいにベンチを盛り上げるタイプもいる。
岡島 たぶん、そういうタグこそが自分からは出てきません。「俺がいると盛り上がるだろ」みたいな人いないでしょ。
尾原 村上さんがいると盛り上がるよ。
村上 そう言ってもらえるとうれしいですよね。
岡島 でも、それも他己評価じゃん。だから、外から見た視点で想起されるキーワードにする必要があるということです。結局、『どこでも誰とでも働ける』ようになるために、みんなが考えなければいけないのは、「私は呼ばれる人になっているの?」ということです。呼ばれる人になっていれば、組織の壁を越えて、どこでも働けるよねという話になる。そのときに「私はどのタグで想起されるの?」というと、1つのタグだけで勝負するのはしんどいから、いくつかのタグがあって、そのかけ算が強いと思います。
(第4回へ続く)
大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。その後統合したピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。一度退職した後、2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月にLinkedinの日本代表に就任。複数のスタートアップの戦略・技術顧問を務めている。
個人適格機関投資家・慶應義塾大学SFC研究所 上席所員。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。2000年より株式会社サイバードでエヴァンジェリスト。2001年に株式会社ケイ・ラボラトリー(現 KLab株式会社)取締役就任。2009年株式会社コロプラに参画、同年12月に取締役副社長に就任。採用や人材育成などの人事領域を管掌し、2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場後、2016年7月退任。 現在、慶應義塾大学SFC研究所 ドローン社会共創コンソーシアム 上席所員、株式会社The Ryokan TokyoのCEO、国内外インターネット業界のエンジェル投資家、リアルテックファンド クリエイティブマネージャー、Drone Fund General Partner を務める。
1968年生まれ。慶應義塾大学卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)に。ペンシルバニア大学ウォートン校でMBA、ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論修士学位を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。ノバルティスファーマを経て、2008年、東京糸井重里事務所(現・ほぼ日)に入社し、翌年より現職。
1966年生まれ。筑波大学卒業後、三菱商事に。ハーバード大学経営大学院でMBA取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職。グロービス・マネジメント・バンク事業を立ち上げ、代表取締役に就任。2007年、「日本に“経営のプロ”を増やす」を掲げ、プロノバ設立。アステラス製薬、丸井グループ、リンクアンドモチベーションなどの社外取締役も務める。
尾原和啓(おばら・かずひろ)
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。