グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、「AI以後」「人生100年時代」の働き方を先駆けて実践する尾原和啓氏。その圧倒的な経験の全てを込めた新刊、『どこでも誰とでも働ける』が発売直後から大きな話題となっています。同書の刊行を記念しておこなわれた、新しい働き方についてのトークセッションの模様をお届けする記事の最終回です。

当日お集まりいただいたのは、プロノバ代表取締役社長の岡島悦子(@mayokajima)氏、株式会社ほぼ日取締役CFOの篠田真貴子(@hoshina_shinoda)氏、元コロプラ副社長で投資家の千葉功太郎(@chibakotaro)氏、ヤフーのCMO(チーフモバイルオフィサー)からLinkedin日本代表に転身された村上臣(@phreaky)氏です。

岡島氏と篠田氏はマッキンゼーつながり、千葉氏と村上氏は日本のモバイルインターネットの黎明期からの盟友で、尾原氏を含めて登壇者が全員モデレーター上手というトークセッションはおおいに盛り上がりました。(構成:田中幸宏)

自分のルーツの中に、本当にやりたいことが隠れている

千葉 ちょっと違う話をしていいですか。ぼくは投資家なんですよ。いま45社に個人で投資していて、ドローンの会社には19社投資しているんです。「千葉道場」というコミュニティをつくって、出資先の起業家たちと日々議論を重ねています。

岡島 濃ゆいよね。

千葉 そこで感じたのは、やれることとやりたいことの差があるということです。ぼく自身の話をすると、ぼくはインターネットはやれるんです。でも実はそんなにやりたくない。やりたいことは社会課題解決です。ただ、インターネットは得意だし、金稼ぎできるので、やってきたし、やれるんですけど、好きとはやっぱり違うんです。

 ぼくは投資家なので、「何で投資を決めるんですかっ?」ってよく聞かれるんですけど、ぼくは「あなたはその事業をやりたいんですか?」と聞くんです。そうすると、最近の起業家は十中八九、そうでもないんですよ。その事業をやりたくて、やっているのではなくて、いろいろリサーチして、ネットでググって、いっぱい人の話を聞いて、いまならブロックチェーンだ、みたいな人が多い。

村上 儲かりそうだから。

千葉 そうやって事業を選んでいるんです。だから、ぼくが投資をするときは、その人が一生かけてそれをやらなくちゃいけない理由があるかどうかをずっと探っていくんです。

岡島 すごくわかる。

千葉 3回も4回も会って、「お前はどうしてそれをやりたいのか」「本当にそれをやりたいのか」「来週もう1回考えてきて、1週間死ぬほど考えて、それをお前が30年後もやっているイメージが持てるかどうか、もう1回考えてきて」と、ずっと問答を繰り返す。それを22歳の若者にもやるんです。ぼくは22歳のときにそんなビジョンはなかったし、ムチャぶりなのはわかっているけれども。

岡島 でも、聞いていくと出てくるよね。

千葉 出てくるんです。必ずルーツがあって、「実は親父が」とか「実は過去につらい経験をしていて」とか、そういう話が出てきます。いまは、たまたま別のことをしているかもしれないけれど、根っこでやりたいことというのは、誰でも持っているんです。

 今日みなさんに伝えたいのは、自分が生きてきた中に必ずルーツがあって、いまもそれを抱えて生きているんです。その中に、どうしてもやりたいこと、やらなければいけないことがあるはずです。

村上 事業とルーツが合っている人に投資をするということですよね?

千葉 そうです。ルーツは必ずあるので、議論をして、事業内容がルーツとピタッと合ってから投資をしたい。そうすると、ものすごく伸びるんです。

岡島 私は「経営者に憑依する女」とよく言われているんです。また巫女シリーズですが(笑)。いまの話はすごく大事で、私も経営者のリーダーシップ開発をするときには、3歳くらいまで遡ってもらうんです。ところが、自分の原体験に気づけていないケースがたくさんあって、だから本当に自分が好きなことがわからないという人もいるわけです。

 さっき篠田さんが言っていたように、すぐに気づけた人は幸せな人で、たとえばSHOWROOMの前田裕二さん(@UGMD)も、若いときに弾き語りをしていたことがいまの動画配信につながっていて、それがあるから、SHOWROOMは前田さんにとって死んでもやりたい仕事なんです。

 一方で、たしかに最近のベンチャー業界をいろいろ見ていると、「ここにアービトラージがあるよね」と言ってやっている人ほど、長続きしないんです。

村上 早期エグジットとか。

千葉 目標を持ってやる分にはいいんです。3年とか5年でアービトラージで一瞬で稼いで、そのお金で、本当に自分がやりたいことをやるんだというのはOKです。

岡島 そういう意味では、本当に自分の原体験と結びついているものに出会えたら、すごく幸せだし、みなさんが何やったらいいか、何が好きかわからないというときは、やっぱりちょっと棚卸しして、自分は何が課題だと思っていたのかを探ってみるといいと思います。

(撮影:Mitsuo Yoshizawa)

50歳になったら、若手のメンターが絶対に必要!

篠田 ただ、その棚卸しはそんなに簡単じゃなくて、とくに若いうちは、ある種ハイコンテクストな世界というか、自分のことを知っている人しかまわりにいないから、壁打ちする相手とも非言語で共有できてしまって、うまく言語化できないんですよ。若いときにたまたま千葉さんや岡島さんのような人に出会えた人はラッキーです。違う文脈で話をすることができるから。でも多くの人は、そうした出会いもなく、同じように文脈を共有する会社に入って、文脈共有を強制されて、まったく自己発見できないまま来てしまう。

村上 いいメンターと出会うには、どうすればいいんですかね?

岡島 ちょっと気をつけなければいけないのは、私はいま51歳なんですけど。あれ、ここ「えー!」って言うところなんですけど(笑)。

全員 ええ~見えない~(笑)

岡島 めんどくさい人だなって、絶対みんなに思われてる(笑)。で、50歳を超えたら、明らかに若手のメンターが必要です。メンターというのは、年齢じゃないんです。新しいことを教えてもらうことがたくさんあるから、(村上)臣ちゃんも私にとってはメンターだし、前田さんもメンターです。「ねえさん、目にウロコついてますよ」と指摘してくれると助かるから、メンターは年上とか先輩という話じゃないと思う。

尾原 異質の、離れた人であればいいわけで。

篠田 文脈を共有していない人と、いかにコンタクトをとるか。

岡島 メンターは枠組みやバイアスを外してくれる人なので、メンターと出会うためには、やっぱりアウェイ勝負するべきなんです。自分と違う領域の人に会いに行って、「あなたの会社では当たり前に見られているかもしれないけど、もしかしたら、あなたはここがすぐれているんじゃない?」と指摘してくれる人。

篠田 (岡島)ペコちゃんにとってのハーバードビジネススクールがそれだったわけね。

村上 ぼくはプライベートで飲むときは、同業の人となるべく飲まないようにしています。おもしろいのは、リバネスの丸幸弘さん(@yukihiroMaru)という人がいて、ヤフーで一緒だった宮澤弦ちゃん(常務執行役員)に「すごくおもしろい人がいるから紹介したい」と言われて会ったら意気投合したんですよ。もう6、7年前だと思うんですけど、彼はスマホも持っていなかった。インターネットも興味ない。興味があるのは、ミドリムシと豚とバイオテックだけ。

岡島 コミュニケーションも、けっこう独特だよね。

村上 一方、ぼくはインターネットが大好きで、お互いにすごく新鮮だった。で、いろいろ話した結果、3ヵ月に1回会って強制的に飲もう、ということになった。で、毎回「いまマイブームは何?」みたいな話をするんだけど、お互いに全然響かない(笑)。

全員 ハハハハハ(笑)。

村上 ぼくが熱烈トークで「インターネットはいまこんなことが熱いんですよ!」と言っても、丸さんは「ふーん、あんまり興味ないな」って感じだし、「じゃあ、丸さんはどうなんですか?」と聞いたら、「よく聞いてくれた」ということでで、会社の実験設備を案内してくれるわけです。そこに水槽があって、チューブからアナゴがぴゅっと顔を出していて、「どうだ、すごいだろ」と言うので、「これ、アナゴですよね?」と聞くと、「アナゴだよ。おれね、ウナギ味のアナゴをつくろうと思っているんだよ」と。

全員 革命だ(爆笑)。

村上 「おもしろいけど、近畿大学のウナギ味のナマズのパクリですよね」と言うと、「絶対にアナゴのほうが向いてるよ」なんて言うわけです。そんな感じで、よくわからないまま、3ヵ月に1回会うというのを繰り返していたら、なんと、5年越しくらいで、ICC(Industry Co-Creation)サミットで、ついに同じカンファレンスで会ったんですよ。リアルテックファンドの話はすごくおもしろいので、ここからは千葉さんにバトンタッチします。

左から、村上臣氏、千葉功太郎氏、篠田真貴子氏、岡島悦子氏 (撮影:Mitsuo Yoshizawa)

イノベーションは遠いもの同士のかけ算で生まれる

千葉 リバネスの丸さんという方は超おもしろいので、ぜひ本に(笑)。日本全国、アジア中のありとあらゆる研究者とつながっていて、研究者だけを支援して、創業支援までして、ユーグレナとかをつくっちゃうような人です。

村上 10年以内に事業化するものには一切興味がないという。

千葉 ぼくが丸さんと出会ったのは、1年3ヵ月前のICCサミットの講師控室だったんですね。ぼくも丸さんも超人見知りだったので、ずっと下を向いて携帯をいじっていたら、スタッフが見るにみかねて、同じテーブルに座らされ、「お前らしゃべれよ」というわけで、ぼくは「コロプラの千葉です」、向こうは「リバネスの丸です」と挨拶したものの、リバネスって会社は知らないし、向こうもコロプラってなんだろうな、聞いたこともないなという顔をしていて。

村上 絶対にゲームとかしないんですよ。

千葉 丸さんはコロプラという名前を1回も聞いたことなかったそうです。怪しいやつだなと思ったけれども、時間つぶしにしゃべり出したら、もうおもしろくて。「千葉さん、茶色いうんこで健康になるんですよ。うんこ食べるんですよ」といきなり言われて、「うんこベンチャーです」と。

村上 ちょうど、うんこベンチャーブームだったんですよね。腸内フローラの話題が盛り上がっていたときで。

千葉 僕は僕で、ドローンのことをワーッと話したりして。丸さんが「てかゲームって流行っているの?」と言うので、「一応上場したんですけどね」という異次元の会話をしながら、それでも意気投合して、その晩も飲んで、ぼくはそのままリアルテックファンドに入ったんです。だから、ぼくはいまも1週間に1回リアルテックの会議に出ているんですけど、いまだに何をしゃべっているかわからないです。わかんないけど、1年間出続けたら、5%くらいは理解できるようになってきて、その珍アナゴ的な世界のおもしろさが少しわかってきました。異質なものとの出会いという意味では、同じような経験です。

岡島 イノベーションは、遠いもの同士のかけ算で生まれるじゃないですか。だから、なるべく自分と遠い人と定期的に会ったりすることで、「これって同じことかも」と気づけることがあるし。

千葉 リバネスさんでは「ブリッジコミュニケーター」と呼んでいますけど、まさに遠いAとBをブリッジするわけです。彼らの場合は、アカデミックな研究者と社会をブリッジする立ち位置です。ぼくはチャラテック(チャラいテクノロジー)代表で、リアルテックの世界から見ると、インターネットはチャラくて、ノーテック(ノーテクノロジー)だけど、チャラテックのいいところは右肩上がりグラフが得意なわけです。一方、リアルテックは10年かかってもフラットなまま。でも、12年後に急に垂直に立ち上がったりする。なので、ぜひチャラテックとリアルテックのブリッジコミュニケートをしてほしいと言われています。ぼくも逆に、リアルテックの超フラットから急に立ち上がるところを、チャラテックに導入したいなと思っている。

岡島 だから、みなさんがメンターを探すときは、やっぱり自分と違う、アウェイなところに身を置いてみて、何がおもしろいのかを探っていくと、そこでバイアスが外れることもあるし、異質なものとの結合が起きることもあるわけです。

 もう1つ、メンターを探すときの大原則は、「何かを教えてもらう」という姿勢はやめたほうがいいということです。メンターの仕事は何かというと、いい質問をしてあげるだけ。メンティー(助言を受ける側)は自分のことが自分ではわからなくなっていたり、うまく言語化できていなかったりするので、メンターからよい質問を投げかけてもらうと、正しく鏡を見る、正しく体重計に乗ることができるわけです。

村上 質問力は大事ですよね。よい質問を受けて、う~んとすごく考える。

岡島 私なんて質問しかしていないです。

尾原 そろそろお時間なのでまとめますね。今回、5人全員司会が得意というはじめてのトークセッションをやってみても、みなさん、こうやって0から学んで、途中で適応してくれるわけです。というふうに、新しいことでもやってみれば、どうにかなるものなので、やってみてほしいということです。

村上 それが『どこでも誰とでも働ける』秘訣ですもんね。

尾原 はい。ということで、お後がよろしいようで。本日はどうもありがとうございました。

村上臣(むらかみ・しん)
大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。その後統合したピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。一度退職した後、2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月にLinkedinの日本代表に就任。複数のスタートアップの戦略・技術顧問を務めている。
千葉功太郎(ちば・こうたろう)
個人適格機関投資家・慶應義塾大学SFC研究所 上席所員。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。2000年より株式会社サイバードでエヴァンジェリスト。2001年に株式会社ケイ・ラボラトリー(現 KLab株式会社)取締役就任。2009年株式会社コロプラに参画、同年12月に取締役副社長に就任。採用や人材育成などの人事領域を管掌し、2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場後、2016年7月退任。 現在、慶應義塾大学SFC研究所 ドローン社会共創コンソーシアム 上席所員、株式会社The Ryokan TokyoのCEO、国内外インターネット業界のエンジェル投資家、リアルテックファンド クリエイティブマネージャー、Drone Fund General Partner を務める。
篠田真貴子(しのだ・まきこ)
1968年生まれ。慶應義塾大学卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)に。ペンシルバニア大学ウォートン校でMBA、ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論修士学位を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。ノバルティスファーマを経て、2008年、東京糸井重里事務所(現・ほぼ日)に入社し、翌年より現職。
岡島悦子(おかじま・えつこ)
1966年生まれ。筑波大学卒業後、三菱商事に。ハーバード大学経営大学院でMBA取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職。グロービス・マネジメント・バンク事業を立ち上げ、代表取締役に就任。2007年、「日本に“経営のプロ”を増やす」を掲げ、プロノバ設立。アステラス製薬、丸井グループ、リンクアンドモチベーションなどの社外取締役も務める。

尾原和啓(おばら・かずひろ)
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。