男に許された唯一のアクセサリーは何か。それは腕時計である。英国人に訊くと、彼らは皆、異口同音にこう答える。紳士の装いは万事抑制の効いたものであるべきで、結婚指輪以外に身につけて許されるのが腕時計なのだ、と。
だが、私はそこに帽子なら加えてもいいのではないかと思っている。本来、紳士のルールでは帽子無しで外出できなかったが、今は時代が違う。そこで敢えて帽子を被ることをお勧めしたい。身につけることで装いに敬意が生まれる、そんな小物は他にはないからだ。
ここで紹介するホンブルグはドイツの地名で、ウィンザー公が英国に持ち帰ったのが名前の由来となっている。クラウンの中央部に折れ目があり、絹のリボンで縁取られたブリムが巻き上がった形が特徴だ。
洒脱な着こなしで知られた元英国首相アンソニー・イーデンが1930年代に着用し、人気を博した。今や紳士の定番ともいえる帽子となった。ピークドラペルのスリーピース・スーツに合わせれば、被るだけで着こなしにひとクラス上の上質感が加わるだろう。帽子が苦手という人も多いが、自分の顔形に似合う形が必ずあるはずなので、これは被ってみて探すしかない。
唯一、帽子を被る際に忘れてはならないのは、室内では必ず脱ぐというマナーである。帽子を脱ぐ所作が様になれば、帽子のお洒落も上級者だ。