確かに、かつてのような高度経済成長の時代には、長期にわたって株式市場が大きく成長し、結果としてどんな銘柄でも持っていれば利益が出た。そのため、持株会が資産形成に一定の役割を果たしたことは事実だろう。しかし、これも過去の経験に基づいて安易に判断してしまう「ヒューリスティック」だ。

“魔法の箱”ではないので
ご利用はほどほどに

 もちろん企業が成長期にある場合は、会社の成長とともに株価が上昇することで、自分の資産も増えるという好循環は起こり得ることだ。また、未公開企業で成長が著しい企業の場合も、従業員持株会に加入するメリットはある。未公開企業の場合は市場で株式を買いつけることができないため、一般的にはMRFなどで拠出した資金をプールしておき、第三者割当などを通じて公開前に取得することになる。

 会社が高い成長性を持っていれば、公開後に大きく値上がりすることもあるから、そうなれば創業者やオーナーと同様、公開によるメリットを享受できることになるし、上場後の高値で一挙に資産が増えたという非常にラッキーなケースもあるだろう。

筆者・大江英樹氏の近著「デキる大人になるレシピ 経済まるわかり」(日経HR)

 ただ、こうしたケースは、決して普遍的なものというわけではない。従業員持株会といえども、単なる株式投資に過ぎず、しかも投資する先は自分が生活の糧を得るための会社であるということを忘れてはいけない。リスクの取り過ぎは避けるべきだ。

 仮に持株会で積み立てるにしても、あまり多くの金額を投入しない方が賢明だと言える。結局は、持株会といえども“魔法の箱”ではなく、あくまでも株式投資の一つに過ぎないのだから、企業に成長力がなければ長期保有しても資産形成にはつながらない。長期投資が報われるのは、期待リターンがプラスの場合においてのみだ。どんな場合でも従業員持株会は有利というわけではないことは、しっかりと認識しておくべきだ。

 かく言う筆者も、実はサラリーマン時代、入社してから退職するまで自社の従業員持株会に加入していたし、ひと頃は自分の資産のほとんどが自社株というきわめてハイリスクな時期もあった。住宅を買う際の頭金などに用いるため、途中で売ったものはよかったが、ずっと持ち続けた自社株については、退職する数年前に株価が大きく下げたため、今でも平均取得価格の半値以下のままだ。

 結論から言えば、ある程度規模が大きくなった成熟産業においては、必ずしも長期保有が報われるとは限らないので、仮に従業員持株会を利用するにしてもほどほどにすべきだということだ。誰もがはまりがちな心理バイアスの存在を十分に考慮した上で、利用に当たっては過度に集中して投資しないことが重要だと言えるだろう。

(経済コラムニスト 大江英樹)