香港特別行政区の北側に隣接する深セン市は、「中国のシリコンバレー」として、昨今世界中から熱い視線を集める新興都市だ。だが、自由闊達なイノベーションの一大拠点という輝かしい一面の裏には、治安維強化の厳しい現実があった。(ジャーナリスト 姫田小夏)
深センの出入境ゲートで
指紋と手の甲をスキャン
4月半ばの午前9時過ぎ、筆者は香港の繁華街・旺角から香港MRTの東鉄線に乗り、深セン市を目指した。香港の北端・東鉄線終点の羅湖駅に着いたのは午前10時。ここで下車するのは、観光目的で訪れる筆者のような、もの好きな外国人もわずかにいたが、多くは仕入れ目的の行商人だ。
車両から吐き出された乗客のほぼ全員が、越境ゲートを目指して歩く。眼下には、香港と深センの間を流れる深セン河に鉄条網が張り巡らされ、緊張感を醸し出す。境界となる細い川を渡るとそこは中国本土、空気はガラリと変わり「厳しい管理下」に置かれたことを察知する。天井にぶら下がるのは無数の監視カメラだ。いまどき日本でも監視カメラは珍しくないが、これほどの数となるといい気分はしない。