歴史的な米朝会談の根底にあった
北朝鮮と国際社会の分断解消
4月28日、北朝鮮の金正恩委員長と韓国の文在寅大統領が、両国間の対立状態を本年中に終結させることについて合意した。そして6月12日には、米国のトランプ大統領と金委員長がシンガポールで会談し、北朝鮮の非核化などについて合意した。「具体性に欠ける合意」という批判はあるが、この数年のあいだ高まり続けるばかりだった緊張感、特に2016年から2017年にかけて連続した北によるミサイル発射を思い起こすと、変化の速さに目まいがしそうなくらいだ。
一方で、米国の介入によって短期間に起こったかのように見える融和に、「ああ、やっぱり」という感慨もある。もともと科学・技術を中心に著述活動を行ってきた私は、韓国や中国、さらにこの両国の間で揺れ動く北朝鮮の科学について、意識しないわけにはいかなかったからだ。
国と国との関係は、時の政権や権力者だけが決めているとは限らない。地表で起こる地震は、ある日突然起こるように見えるが、背景には地面の下で積み重ねられた動きの数々がある。国と国の関係も、そのようなものかもしれない。
本稿では、北朝鮮をめぐる科学外交の長い歴史を紐解きながら、政府や政権だけを眺めていてはわからない国と国との関係を見つめ直してみたい。
北朝鮮と韓国がそれぞれ独立国として成立した1948年以来、公式には2国の対立状態が70年にわたって続いていたことになる。もともと朝鮮半島に住んでいたハングル語を話す民族が、第2次世界大戦終了後、北緯38度を境界として北をロシア、南をアメリカに占領されたことから、「冷戦」下では共産主義国と資本主義国として対立し、その後も周辺諸国の事情を背負った融和や分断強化が繰り返された。