マツダは2017年上期、自社過去最高の世界販売台数を記録した。その販売台数は78万台、2017年3月期通期での見通しは160万台と、トヨタの実に6分の1の規模でしかない。しかしマツダの生存戦略は、様々な業界でも生き残りを考える上で極めて重要な示唆を与えている。それは、「生き残るために何をすべきか」ではなく、「世界に何をもたらすべきか」という視点の大切さだ。グーグル、ソフトバンク、ツイッター、LINEで「日本侵略」を担ってきた戦略統括者・葉村真樹氏の新刊『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から、内容の一部を特別公開する。落合陽一氏推薦!
EV時代に「走る歓び」を追求するマツダの存在価値
マツダは、トヨタ、デンソーとともにEVの基幹技術の開発を行う新会社を設立したものの、世のEVシフトの大合唱の中、「スカイアクティブテクノロジー」と彼らが呼ぶ、ディーゼルを含む高効率な内燃機関に大きな投資を行い、開発と生産を進めている。
そもそも、大規模な投資が必要なEVなどのゼロエミッション機関を開発するだけの体力がない、ということもあるが、マツダが内燃機関にこだわる理由は、実はマツダ自らが定めた自動車メーカーとしての「存在価値」にある。
フォード傘下で経営再建に取り組んでいた2002年、マツダはクルマの走る様子を表す「ブー・ブー」という子ども言葉を英語で表現した“Zoom-Zoom”をブランドメッセージと定め、「子どものときに感じた動くことへの感動を愛し続ける人々のために、心ときめくドライビング体験を提供する」ことを、ミッション・ステートメント=存在価値とした。
「クルマはただの移動手段ではない」とマツダは明言し、「走る歓び」をブランドエッセンスと定めたのである。当時、マツダのブランドエッセンスとは何か? を関連会社や消費者に伝えるために、マツダは「ブランドエッセンスビデオ」というものを作成したのだが、これが今に続く、マツダ再生の原点となったのである。
わざわざ全文でこのビデオのメッセージを紹介したのには理由がある。それは、マツダのブランドエッセンスというものが、自動運転車の世界とは大きくかけ離れた価値を訴求するものであるからだ。