彼を知り己を知れば百戦殆うからず

 これまでの連載で「自らの存在価値を見定める」ことについて、様々な事例を通して話してきたが、これは「自分が生き残るためには何をすべきか」ではなく、「自分は世界に何をもたらすべきなのか」と意識を変えることに過ぎない。

 言い換えると、利己から利他的な考えに自らを変えることである。しかしそれには、まず「自分ならではの価値」が何であるかを知ることが必要となる。

 マツダはそれを知るために、1990年代末の経営危機を受けた2000年代初頭の経営再建にあたって、全世界規模での市場調査を行ったというのは既に話したとおりである。

 そして、その調査を通じて、マツダは自らを支持する人たちに共通する価値意識、すなわちマツダだからこその価値について知ることとなる。

マツダのバリュー・プロポジション

 そして、それは自動車市場のわずか4%が求めているに過ぎない価値であったが、それをあらゆる場面において徹底して提供し続けることが、マツダが世界にもたらすことができる唯一のものであり、結果的に生き残るための戦略だと、マツダは考えたのである。

 マツダは“Zoom-Zoom”について、単に広告宣伝の謳い文句にするだけでは終わらせなかった。既に述べたように、マツダは4%の市場シェアを獲得しさえすれば良い。

 そこで、ターゲットカスタマーの心理面まで含めて、プロファイルを精緻化し、今で言う「ペルソナ」をマーケットごとに規定した上で、プロダクトを企画し、それぞれのペルソナが“Zoom-Zoom”=走る歓びを感じるプロダクトを実際に開発した。

 それはエンジンなどの動力性能からハンドリングを左右するシャシー性能、実際の室内での着座姿勢から各種操作スイッチなどの操作性、ドアの開閉音や手に触れる部分の手触り、クルマの塗装の光の変化に至るまで。

 このような徹底した開発の一方で、バラバラと車種ごとに分散化していたブランドイメージをマツダ総体として構築する方針へと転換、テレビCMで共通イメージを長い時間をかけて訴求するだけでなく、ディーラーデザインや店頭でのコミュニケーションなどにも変革を促した。

 マツダのように「自分は世界に何をもたらすべきなのか」を考える上で、改めて「自分ならではの価値」が何なのかを考えることは、ディスラプションによって自らの地位を失いそうなときに極めて有効である。

(この原稿は書籍『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)