共同宣言は前文で「トランプ大統領は北朝鮮に対して安全の保証を提供することを約束した。金委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた堅固でゆるぎない決意を再確認した」と謳い、4箇条の本文の第3条で「2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け努める」としている。

 だがこれまで米国が強調してきた「完全で検証可能、不可逆的な非核化」(Complete,Verifiable and Irreversible Denuclearization = CVID)のうち「検証可能」と「不可逆的」の語は消えていた。

 トランプ大統領は記者会見で「完全な非核化には非常に時間がかかる。だがプロセス(過程)に着手すれば(核兵器は)使用不能になる。実質的には終わったようなものだ」と述べている。また「制裁が取り除かれるのは核兵器がもはや懸念材料ではないと我々が確信したときだ」と答えた。

 従来トランプ大統領ら米政権は「CVIDが達成されるまで、最大限度の圧力をかけ続ける」と言い、安倍首相も口癖のようにそれを繰り返していた。ところが今回、トランプ大統領は非核化に着手さえすれば非核化を果たしたと同然、と言うのだから大違いだ。まるでマラソンで走り出せばメダルを授与するような形だ。

「完全な検証」はもともと無理だった
戦争で負けたイラクとは違う

 北朝鮮は事前の交渉で「非核化に向けた作業が進むにつれ、米国は段階的に見返りを出すべきだ」と主張していた。検証と不可逆化が終了するまで経済制裁が続き、経済、外交関係の進展もないのでは、いつになれば見返りを得られるか分からないからだ。

 5月10日付けの本コラムでも書いたが、具体的に考えれば完全な検証と不可逆性を達成するのはきわめて困難だ。

 北朝鮮がNPT(核不拡散条約)に復帰し、IAEA(国際原子力機関)の査察を受ける可能性は十分にあるが、北朝鮮が保有している核弾頭数の推定には「約12発」から「約60発」まで大きな幅がある。仮に北朝鮮が12発の核弾頭を提出しても「もっと造ったはず。隠しているのでは」との疑いが生じるのは必至だ。

 またIAEAの査察は申告された核施設(原発や使用済み燃料棒の再処理施設、研究機関など)を調べ、核兵器の製造や開発が行われていないことを確認するのが一般的だ。