IAEAの査察官が北朝鮮の申告した施設を調べ、機能が停止したことを確認しても「他の秘密の施設があるはず」との疑いが出る。未申告の施設を査察させるよう要求することもできるが、完全な検証をするには弾薬庫や地下のミサイル陣地など、全ての軍の施設を抜き打ちで徹底的に検査する必要がある。イラクのように湾岸戦争で敗北した国が国連の調査団の査察を受け入れた例はあるが、北朝鮮は降伏したわけではないから、軍の施設の抜き打ち査察を認めることは考え難い。

「不可逆」はさらに困難
技術者の知識、経験は消せない

「不可逆性の達成」はさらに難しい。仮に全ての核施設を破壊しても、原子物理学者や核技術者が残っていれば施設を再建し、核兵器の製造を再開することは可能だ。水素爆弾まで造った知識と経験は抹消できない。

 このため米国では「北朝鮮の核技術者を国外に移住させろ」との論も出た。その対象者は2000人とも1万5000人とも言われる。核技術者を単に国外に追放すれば、核技術が他の国々に拡散する結果になるから、米国に連行するしかあるまい。だが、国連の「世界人権宣言」13条や、国際人権規約(市民的及び政治的権利)の12条は「移動、居住、出国の自由」を定めているから、他国民を奴隷のように連行することができるはずがない。

 今回の首脳会談後の記者会見でトランプ大統領は、北朝鮮が「非核化に向かって具体的行動を取れば」制裁緩和などの見返りを出す姿勢を示した。これは、北朝鮮が求めていた段階的対応を承諾したことを示している。

 米国との交渉に当たっていた北朝鮮の金桂寛第1外務次官は5月16日「米国は一方的に非核化を迫るだけだ」と不満を述べる談話を発表し、首脳会談の中止または延期をちらつかせた。これに対しトランプ大統領は24日に首脳会談中止を通告したが、その書簡の中で「会うことを楽しみにしていた。電話なり書簡なりで連絡してほしい」など未練たっぷりの心情を示した。