選挙前に「外交上の得点」を優先
日本は「対米従属」が強まる懸念

 米朝首脳会談はトランプ大統領が外交上の実績を誇れる唯一の見せ場だ。これまでに地球温暖化防止のための「パリ協定」から脱退、「TPP」からも脱退、イランの核開発を制約する「イラン核合意」(イランと米・中・露・英・仏・独が同意した)からも脱退を表明、国連決議に反してアメリカ大使館のエルサレム移転も強行して多くの国から非難を浴びた。

 さらには鉄鋼、アルミへの追加関税導入で6月8日、9日のG7で他の6ヵ国とも衝突し、閉会の4時間前に退席、シンガポールへ向かう機内からのツイッターでG7主催国カナダのJ・トルドー首相を「不正直な弱虫」と罵るなど、四面楚歌の状況に陥っている。

 11月の中間選挙(上下両院議員、州知事等の選挙)を前に「私がアメリカに対する北朝鮮の核の脅威を平和的に除去した」と宣伝するためには、今後の実務者間協議でも決裂を避けざるをえまい。

 北朝鮮が米国に届くICBMの開発を中止するだけでも「アメリカにとって北朝鮮の核兵器は懸念材料ではなくなった」とも言える。だが、日本にとっては北朝鮮に中距離ミサイル100発以上が残り、査察は不徹底で核弾頭が本当に全て処理された確証がなく、イスラエルの核兵器のように「あるとは言わないが多分あるはず」と思わざるをえない状況となっては実に苦しい。

 これに乗じて米国は「日本の安全は我々が保証する」として兵器の売り込みを計り、通商問題での譲歩を迫るなど、対米従属性が増大する可能性も考えられる。

戦争回避の利益は大きい
無意味な対話ではなかった

 とはいえ、大局的に見れば、今回の米朝首脳会談により、戦争は少なくとも当面避けられたから、その効果は大きい。

 昨年には、現在アメリカ大統領の安全保障担当補佐官となったJ・ボルトン氏など米国の右派が北朝鮮に対する先制攻撃を主張、世論調査でも米国民の60%以上が武力行使を支持していた。もしそうなれば、全ての核ミサイルを一気に潰すことは不可能だから、北朝鮮は攻撃を受けて自暴自棄になり、残った核ミサイルを米軍基地のある日本や韓国に発射し、数百万人の犠牲者が出る公算が大だった。

 今回の米朝首脳会談でその危険は一応去った。互いに突き付けあっていた拳銃をホルスターに戻し、握手したような形にはなったのだから「対話のための対話も無意味ではなかった」と評価すべきだろう。

(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)