強敵コロンビア代表を2‐1で撃破し、勝ち点3をもぎ取る西野ジャパンの金星発進に深夜の日本列島が狂喜乱舞した。前回ブラジル大会で1‐4の惨敗を喫したコロンビアにリベンジを果たす、価値ある白星を挙げる先陣役を務めたのはトップ下の香川真司(ボルシア・ドルトムント)。開始わずか3分に放ったシュートが相手のハンドと一発退場を誘い、獲得したPKを冷静沈着に決めて、ワールドカップでの初ゴールをゲット。試合の大半を10人で戦ったコロンビアは時間の経過とともに運動量が低下し、後半28分にFW大迫勇也(ベルダー・ブレーメン)の決勝弾が生まれた。日本代表の「10番」を託されて8年目。幾度となく「輝けない」と揶揄された29歳が果たした復活劇の舞台裏には、自らに足りなかった強い心を得るために唱え続けた「呪文」のような言葉があった。(ノンフィクションライター 藤江直人)
開始3分でW杯初ゴール
大金星奪取を導き出した香川のプレー
相手のキーパーからおもむろに話しかけられても、相手のキャプテンからボールの位置に対してクレームを突きつけられても、日本代表の香川真司は集中力を途切れさせなかった。
試合中に獲得したPKを誰が蹴るかは、事前に決まっているケースが多い。キックオフからわずか3分。ダミル・スコミナ主審(スロベニア)がPKを宣告すると、キャプテンのMF長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)は手を大きく叩き、次の瞬間、香川のお尻のあたりをポンと叩いた。
そこにはキッカーに指名されていた香川へ、「任せたぞ」というメッセージが込められていたのだろう。力強く抱えたボールをペナルティースポットにセットした日本の「10番」は、再三に渡るコロンビア代表の妨害行為を笑顔で受け流しながら、自分だけの時間を作り上げていた。
果たして、小刻みなステップを踏み、コロンビアの守護神ダビド・オスピナ(アーセナル)のタイミングを狂わせながら、香川は右足を振り抜いた。ほぼ真ん中を射抜き、ゴールネットを揺らした軌跡は、左へ飛んだオスピナの動きをはっきりと視界に捉えていたからに他ならない。
劣勢が予想された日本を勇気づけ、さらなるパワーを与え、日本を含めたアジア勢が南米勢から挙げた初勝利への序章となった値千金の先制点。ワールドカップ出場4試合目にして初ゴールを決めた香川は、ユニフォームの左胸に縫いつけられた日の丸を何度も叩きながら雄叫びをあげた。