トランプ大統領という「劇薬」を投じなければ、事態は打開できなかったのである。

トランプ外交のパラドックス
戦後米国の基盤、崩す「毒薬」

 では、既存の政治家や外交専門家が間違っているのか。必ずしも、そうとは言えない。

 トランプ大統領の「ポピュリズム」と「ビジネスマンのディール」は、戦後の「アメリカ支配」を切り崩す効果、いわば「毒薬」にもなり得る可能性を持っているからだ。

 トランプ大統領は、ロシアや中国と核大国同士の軍事的均衡で世界を支配できると考えている節があるが、事はそう単純ではない。

 戦後のアメリカが覇権を確立できたのは、圧倒的軍事力とドルの国際通貨としての確立だけによるのではない。

 ひとつは、自由貿易の旗を掲げて自国の市場を開いて世界経済を牽引してきたこと、もうひとつは、第2次大戦でナチスドイツによる迫害からユダヤ人を解放し、戦後の自由と民主主義といった価値を自ら体現してきたことにある。

 前者について見れば、トランプ大統領の一方的な鉄鋼・アルミ関税や中国への制裁関税は、米国支配の戦後レジームを正統化してきた自由貿易体制を損ねるだけでなく、戦後に同盟関係にあった欧州諸国との対立を生む。そして、いまや立場が逆転して、中国がアメリカに代わって「自由貿易」を主張するようになっている。

 後者については、かつてナチスドイツに迫害されたユダヤ人は、いまやパレスチナ人を迫害するようになっている。エルサレムをイスラエルの首都として一方的に承認し大使館を移転し、イラン核合意からの一方的離脱を表明したことは、こうした迫害を正当化することになりかねない。それは同盟関係にある欧州諸国とも対立する。

 またトランプ大統領はメキシコ移民を強く排斥するのに対して、かつてユダヤ人を迫害したドイツが移民に寛容になっている。ここでも立場の逆転が生じている。

「劇薬」に翻弄される日本
安倍首相では通用しない

 では安倍政権は、どのように対応してきただろうか。