社外取にとって、会社は「弊社」?

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):自分の経験からおまけ的な話をすると、僕は、取締役をネイキッドテクノロジーというスタートアップとミクシィでやって、社外取締役としてラクスル、ロコパートナーズで務め、2018年度からはセプテーニでも務めますが、常々「社外取締役は自分の会社のことを何と呼ぶべきか問題」について考えておるのですよ。

小林:「弊社」なのか、とか。

朝倉:そうそう。精神論みたいな話なんだけど。自分が代表を務めている時であれば、何の疑いもなく「うちの会社」って言うでしょ? それだけのコミット感があるし、自分の会社だって自信を持って言いますよね。
じゃあ、社外取締役を務めている会社のことを「うちの会社」と呼べるかというと、これ、かなり微妙なんじゃないかという気がします。
まずは社外取締役って立場で入ってるから、会社と自身が意識のうえで一体化してしまってはまずいんじゃないかという論点が1つ。もう1つは、フルタイムで一生懸命頑張っている経営者や従業員の人たちに対して、少なくとも時間面においては関与度合いの低い人間が「うち」と呼ぶのはおこがましいし、失礼なんじゃないかということ。
たとえばそれをラクスルの松本社長に話したら「それ、『うち』で問題ないでしょ。そのほうが嬉しいですよ」と言ってはくれるのだけど、どっちなんだろう、とは思う。

村上:僕は、直感的に「うち」の会社じゃないと思った。

小林:私もそう思った。

村上:たとえば、事業売却をする時に、その時の立場って、明らかに客観的になるべきじゃないですか。そうした時に、会社を「うちの」、つまり俺のもんって言った瞬間に、所有感が際立つでしょ。この所有感が際立った時に、「うち」じゃなくて、たとえば「○○社のステークホルダーのことを考えると」って、客観的な視点が絶対必要だから、僕は明確に「うち」ではないんじゃないかと思っちゃいますけど。

朝倉:これも企業成長のフェーズ感に関わる話かもしれなくて。若い会社のほうがより近い立場にいないといけないだろう、というのもあるんです。でも、べったりでいいのかというと、そうでもない。
とは言え、責任を負っているんだから、コミット感はないとダメじゃないですか。コミット感を持つとなると、どうしても「自分の」って気持ちは入るわけですよ。

村上:株を持って社外取締役をやっているかといった状況によっても変わってきますね。やっぱり報酬設計って大事で、コミット感や立場など色々と変わってくるんでしょう。

朝倉:もっと言うと、株主はどのような目線で会社を捉えるのか、という話なのかもしれませんね。まったくオペレーションに関わっていなかったとしても、自分が株を持っていれば、それは「うち」なのかもしれない。でもベッタリとも違う。「年度末のパーティーをやるから」と呼ばれた時に、ちょっと輪に入れずに寂しいくらいの関係がちょうどいいのかもしれませんね(笑)。

*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2018年1月2日に掲載された内容です。

ユニクロ柳井社長に見る「良い緊張感」を生み出す取締役会朝倉祐介 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。


ユニクロ柳井社長に見る「良い緊張感」を生み出す取締役会村上 誠典 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。


ユニクロ柳井社長に見る「良い緊張感」を生み出す取締役会小林 賢治  シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。