シニフィアンの共同代表3人による、日本企業における「取締役会について」をテーマにした床屋談義「シニフィ談」の第4回(全5回)。(ライター:福田滉平)
スタートアップはいつから経営と執行を分けるべきか
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):取締役や取締役会の位置づけについて、僕の課題意識を述べると、経営と執行の分離をどのタイミングから意識し始めるのかという論点があります。スタートアップにとって、いつから経営と執行を分離するのがベストタイミングなのか。これってなかなか分からないんですよね。
我々は得てして会社を経営する人物を、「経営者」と一口でまとめてしまいますが、もう少し解像度を上げて見てみると、経営って3段階くらいに大別できると思うんです。
まずは「0→1」。ゼロからプロダクトを生み出して、マーケットフィットを図っていく段階。この段階を担う経営者のことを、僕は「起業家」と呼んでいます。
次に、「1→10」。なんとか立ち上がったプロダクトをビジネス化して、それ単体で収益が成立する事業になるまでスケールさせる段階。この段階を担う人物のことを、僕は「事業家」と呼んでいます。3つ目が「10→100」の段階。これは、「10に育った事業を100に伸ばす」と言う話ではなくて、「10の事業×10個を回す段階」だと捉えています。この段階を担うのを、僕は狭義の「経営者」と呼んでいます。
孫さんや永守さんのように、すべての段階を1人でまっとうなさる方もいらっしゃいますが、この3つの段階は、基礎体力が必要なことこそ同じだけれども、やっていることは結構違う。素晴らしい起業家が必ずしも名経営者になるとは限らないし、逆に名経営者が良い起業家とも限らない。
また、この3段階のなかでも後半に寄れば寄るほど、ガバナンスやファイナンスについての知識や意識が求められる比重がより重くなってくるのもポイントだと思います。逆に、0→1や1→10の段階にあると、会社の経営そのものが、より執行に深く紐付いたものになりがちです。0→1の場合なんて、プロダクトを作り込むこと自体が、この段階における「経営」であったりするわけですから。
そう考えた時に、どの段階で、明確に会社の経営と執行を切り分けていくのか。これって重要な論点だと思いますよ。
最初から、「ガバナンス意識を強く持ち、経営と執行は完全に切り分けるのだ!」と言ったところで、これではまったく現場をコントロールできませんし、事業を開発することもできないでしょう。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):私は、経営と執行の分離が意識されなきゃいけないのは、多事業化、多地域化とか、複雑性が上がるタイミングだと思う。要は、シングルな領域で、シングルプロダクトをつくっている時は、あんまり関係ないとも言える。
面白い例にコニカミノルタがあります。あの会社は一度、純粋持株会社を作って事業を子会社としてぶら下げる組織を作った後に、しばらくしてやめて、元の体制に戻したんです。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):確かにあったね。どういう背景だっけ?
村上:最初は、経営と執行を分離することによってメリットを得られるフェーズがあった。ただ、ある瞬間にデメリットが大きくなったのでやめましたと明確に言っています。多角化しポートフォリオを再構築する際に、リソース配分を持株会社でコントロールするのと同時に、各事業の意思決定のスピードを上げるために、統治の仕方を変えるフェーズが必要だった。こんなダイナミックな変化を10年間の間に先駆けてやった会社ってなかなかない。彼らは、経営と執行の距離感というのをすごく意識されていたんじゃないかと思うんです。
つまり、距離感のとり方って企業の大小だけでも語れなくて、状況等によって、実は細かくファインチューニング(微調整)し得るテーマなのかなと思う。正解って1つじゃないんですよね。状況によって変わりうる。