シニフィアンの共同代表3人による、日本企業における「取締役会について」をテーマにした床屋談義「シニフィ談」の最終回(全5回)。(ライター:福田滉平)

柳井さん的ルールを作れるか

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):最後にもう1つ、僕の問題意識について議論させてもらえますか。社外取締役や取締役の人は、執行側の人の距離感をどう取るべきなのか。要は、まったく話さずに取締役会に行って、本当にアウトサイダーとして発言するという運営がいいのか、それとも、執行とコミュニケーションを普段からとっておくほうがいいのか。
この話で、僕が印象的だったのは、ある会社にいらした、外国人の社外取締役の方です。その方は、日本語もしゃべれないし社外取締役だから、取締役会だけ来てちらっと話すだけかな、と社内の人は思っていたようです。そうしたら逆で、普段から執行役とか部長クラスと直接連絡をとって、内情を聞いていたらしいんです。
そうすると、何が起こるかというと、あの偉い外国人の社外取締役が、うちの執行側にダイレクトに聞いてイシューを把握してる。「こっち側も見られている」っていう緊張感から、取締役会の雰囲気がピリッとするわけですよ。
だから、独立性を担保することも重要なんだけど、執行側とのコミュニケーションラインが断絶されてる会社とある会社とでは、僕はあるほうがいいんじゃないかなっていう仮説を持っているんですよね。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):それで思い出したのが、ある金融機関。指名委員会等設置会社だったんだけど、監査委員の中心が社外取締役で、監査委員のメーリングリストに、かなり細かいレベルの業務エラーやシステムエラーも届くようになっていたそうなんです。だから、何かおかしなことがあれば、「なぜ起こったんだ?」って監査委員が突っ込める仕組みになっている。一次情報を社外取締役が見ているから、隠せないんですよ。

村上:ユニクロだと、クレームは柳井(正・ファーストリテイリング会長兼社長)さんに届くって言うじゃないですか。まさに柳井さん化現象(笑)

小林:そうそう。もし、柳井さんに「お前対応したんか、あれ」って言われると、社内の人は「すぐにやります!」ってなるじゃないですか。あれと同じで、社外取締役の監査委員が、「これ、おかしくない?」っていうのを突っ込めるように、一次情報に触れる仕組みをその金融機関は作っていたんですね。
逆に、社外取締役との間に社内のスクリーニングが入っちゃうと、一次情報が歪められてしまう。おかしな予兆があっても、それを正当化する資料とセットになってから出てくるとかね。

村上:確かに、この人がどこまでの一次情報に触れるかによって、ガバナンスの範囲って変わってくるよね。
たとえば部長クラスのところまで社外取締役が直接コンタクトできると、部長クラスの情報までは歪められず判断・管理されるんだけど、その場合でも部長以下で忖度されてしまうかもしれない。一次情報へのアクセスがあることは、最も先鋭化したガバナンスの仕方と言えるでしょう。

小林:この一次情報の共有は、ある有名なBtoC企業も同様に取り組んでいるらしい。その会社は、顧客から上がってきた商品クレームを全ての役員に提供している。自社が今、市場でどんな評価にさらされているのかを見せるわけです。

村上:実際に取締役は細かく見ていなくても、オペレーション側は「これ取締役が見て、時々質問してくるかも」と思ってしまうという、柳井さん化現象のプレッシャーがあるからね。この「取締役に見られている」っていう感覚、従業員の人が取締役がどういうものかを感じるという点だけでも随分意味があるでしょう。

小林:むしろ、長々と資料作るよりも効果があるかもしれない。

村上:一番偉い人の顔が見えた瞬間に、不祥事は起きづらくなりますよね。