また、過去、数ヵ月間に複数の秘密施設で、高濃縮ウランを増産したという複数の米国情報機関の分析もある。北朝鮮には、大量のウラン埋蔵があり、高濃縮ウランによる核兵器はより大量に生産できるという利点がある。さらに、別の衛星写真では弾道ミサイル製造拠点の大幅な拡張工事を完了させつつあるという。ここでは固体燃料ロケットエンジンなどが製造されているという。
 
 これは交渉の戦術というよりは、核ミサイル開発を諦めていない証拠と見るべきであろう。
 
 米韓は、8月の合同軍事演習を中止して朝鮮半島の緊張緩和に努めているが、これに対する答えが、核ミサイル施設の拡張強化なのだろうか。確かに北朝鮮は、ミサイル実験施設の坑道を破壊した。しかし、それは入り口のみであり、“穴掘り名人”の北朝鮮であればすぐに回復できるものだ。また、ミサイル発射施設の破壊についても、日本に到達可能な中短距離ミサイルの発射は「移動式発射台」から行われており、日本にとって全く安全確保につながっていない。

 北朝鮮は、核ミサイルの段階的放棄には「経済制裁の解除や、経済支援が必要」と言うかもしれない。また、自ら首脳会談に乗り出してきた金委員長を見て、今回こそ北朝鮮は本気で核廃棄を考えているという向きも多い。だが、これまで支援を受けておきながら、約束を反故にしてきたのは北朝鮮自身だ。米国側が「制裁は継続する」との立場を維持したことに北朝鮮は不満なのだろうが、CVIDの道筋に関する協議に誠実に対応しない状況では無理な話であることは自明だ。米韓合同軍事演習の中止に対し、北朝鮮が38度線に配備している長距離砲を一部なりとも撤去したのか。期待値だけで北朝鮮に対応するのは危険である。

 北朝鮮は、隙を見せればそこを突いてくる。米朝首脳会談の合意にCVIDが盛り込まれていないことから、北朝鮮はそこを突いてきたのだろう。米朝首脳会談における米国側の譲歩が裏目に出て、北朝鮮を束縛から解放してしまった形だ。

 しかし、CVIDは不可欠であり、そもそもトランプ大統領は北朝鮮が応じないまま合意文書など作るべきではなかったのだ。

大統領と直接交渉し
譲歩を引き出したい北朝鮮

 米朝首脳会談後の推移を見ていくと、これから重要なのは、トランプ大統領が事前の準備なく、北朝鮮に対し譲歩の姿勢を示さないことだ。

 米朝首脳会談は、トランプ大統領が米国政府内の助言を聞き入れることなく、独断で設定したものだ。それは、北朝鮮の非核化を実現する展望があったというよりは、歴史上初めて北朝鮮の最高指導者と会談し、朝鮮半島の平和に一定の成果を残すことで、今年秋の中間選挙、そして2年後の大統領再選に活かしていこうという、「国内政治を優先させた判断だった」と言わざるを得ない。