その証拠に、首脳会談の中止を通告した際にも、トランプ大統領は北朝鮮が応じる意向を示しただけで中止を撤回、会談を予定通りの日程で再設定してしまった。このとき中止を撤回せず、北朝鮮をじらしていたならば、北朝鮮は今より態度を格段に軟化させていたに違いない。

 今回、北朝鮮側は、ポンぺオ氏と会談しても期待する結果は得られないだろうと考えているのではないか。

 トランプ大統領の親書に答える形で、金委員長から返信された親書の中身について、前述の外務省報道官談話は、「シンガポールでの首脳会談を通じて結んだトランプ大統領との親交関係と信頼感情が、今回の会談を始めとして、今後の対話過程でさらに強化されるだろうと期待し、確信する」と紹介している。

 これは、トランプ大統領の方が閣僚交渉より譲歩してくれると期待し、今後はトランプ大統領に直接訴えようとしている意図があると見られる。

 ただ、トランプ大統領は、常に自分にとって得なのか損なのかを計算しながら行動している。友好国、同盟国に対しても、そうした打算で行動し、対立している。そうした視点で見た場合、今後の米朝関係はどうなるだろうか。

 トランプ大統領はすでに一度、金委員長と会談を行っている。再度会談しても国内政治的にそれほどの効果は期待できないだろう。前回の会談でも支持率は、世論調査によって若干差はあるものの、2~5%上がった程度であり、米国の世論は北朝鮮問題をあまり評価していない。つまり、再び会談するメリットはあまりない。

 となると、北朝鮮が今回のポンぺオ長官の姿勢に反発し、核ミサイルの開発を続けるならば、トランプ大統領は、「北朝鮮が約束を反故にした」として、より厳しい姿勢を示してくる可能性もある。そのとき、米朝関係は再び緊迫する場面が訪れるかもしれない。

 現在の状況は、何があっても北朝鮮にCVIDを決断させることである。そのためには今一度、米国が北朝鮮に対して“不動の姿勢”を示すことである。そして北朝鮮は、時間的な余裕が決して長くはないことを理解すべきである。

(元在韓国特命全権大使 武藤正敏)