日本の公的な医療保険(健康保険)は、大きく分けると、労働者のための「職域保険」と都道府県単位の「地域保険」の2つで構成されている。
職域保険は、雇用されている労働者のためのもので、(1)中小企業などの従業員が加入する「全国健康保険協会(協会けんぽ)」、(2)大企業などの従業員が加入する「組合管掌健康保険(組合健保)」、(3)公務員などが加入する「共済組合」、(4)大型漁船などの乗組員のための「船員保険」がある。雇用されて働く人を被用者というため、これらをまとめて「被用者保険」とも呼んでいる。
地域保険は、住んでいる地域ごとに運営されているもので、都道府県単位の「国民健康保険(国保)」がそれにあたる。自営業者、非正規雇用の労働者、無職の人などが対象で、被用者保険に加入している人以外のすべての人に国保の加入を義務づけたことで、日本は国民皆保険を実現した。
このほか、地域保険には、建設業や美容師、弁護士など特定の業種の個人事業主のための「国民健康保険組合(国保組合)」、75歳以上の人が加入する「後期高齢者医療制度」がある。
このように、雇用されているかどうかによって加入先は分かれるが、現在は被用者保険でも、地域保険でも、病気やケガをしたときに受けられる治療に差はなくなっている。だが、被用者保険にしかない保障もある。
会社員や公務員の人は、病気やケガ、出産を理由に仕事を休むと、その間の所得保障として「傷病手当金」と「出産手当金」が支給されるが、国保には原則的にこうした制度は用意されていない。
なぜ、国保には傷病手当金や出産手当金が作られなかったのだろうか。健保法、国保法が制定された当時の時代背景から探ってみよう。