TBSラジオ『Session-22』でパーソナリティを務め、日々、日本の課題に向き合い続けてきた荻上チキによる新刊『日本の大問題――残酷な日本の未来を変える22の方法』が7月19日に刊行された。【経済】【政治】【外交】【治安】【メディア】【教育】――どこをみても「問題だらけ」のいまの日本の現状と、その未来を変えるための22の対応策がまとめられた同書のエッセンスを紹介していきます。

「野党は代案を出さない」は批判になるか

最近はよく、代案を提案するのが責任野党だという言われ方をします。でも、与党が多数を占める議会では、代案を提出してもまず通りません。一部の文言を変えたり、あるいは法的拘束力のない付帯決議を盛り込んだりできるくらいでしょう。にもかかわらず、議題設定の主導権を握る与党側は、「代案を作らなければ議論に乗せない」という語り方をする。その段階で、与党の法案を通すこと、あるいはその議題を受け入れることが前提になっています。

 自らの法案を通すことが前提で代案を出してくださいと言い、代案を出したら、作ること自体はもう賛成ですねという空気を作ることになる。それ自体がおかしいということで代案を出さないと、反対ばかりしている野党だという印象操作をすることができる。いずれにしてもペースメイクをするのは与党です。

野党の仕事は「反対すること」

 そんななかで、国会での野党の仕事は、基本的には「反対すること」と言い切れます。代案を作ることは国民に対しては誠実なアクションですが、そもそも日本では、閣議決定された閣法が通る確率が9割ほどなのに対して、議員立法で成立する法案は1割程度しかない。
 となると、与党政府から出されてきた法案に対して、問題点をあぶり出していきながら、時に問題点を修正し、あるいは廃案にすることが、野党の重要な役割ということになります。代案主義というのは、強い言葉で言えば、権力側に都合の良い飼い慣らし手段であるとさえ言えるでしょう。もちろん、野党が政権交代を狙うのであれば、国民に対して代案、すなわち現政権と別のビジョンを示すことは不可欠です。しかし、国民に対して代案を提示するのと、議会において代案を提示するのとでは役割が異なるのです。
 法案を通そうとする側は、法案のメリットを最大限に主張しますが、法律というのは、それが恣意的に濫用された場合にどうなるのかということを想定しなければいけない。

 だから野党というのは、最悪のパターンを想定して反対することが大事な役割となる。むしろ、賛成ばかりする野党では、存在意義がありません。重箱の隅を突くくらい、慎重に法案に「ツッコミ」を入れることで、結果として法案を「多様な視点が踏まえられたもの」にすることが重要となるのです。「ツッコミ」には、委員会や集中審議など国会での質問だけでなく、メディア上での公開討論や、質問主意書といって、文章で回答を求めるもの、あるいは官僚に対する合同ヒアリングなど、さまざまな仕方があります。
 与党の法案をそのまま全部通していいのであれば、議会は不要です。だから、国会の主役は野党という言い方さえされることがあるわけです。選挙を通して議席を獲得した少数派だからこそ、少数の声からのチェックを最大限に実行することが、野党に求められているわけです。