第三者からの精子・卵子提供による非配偶者間の体外受精、代理出産を日本で最初に手がけ、一時期日本産科婦人科学会を除名されていた産婦人科医の根津八紘氏。長野県、諏訪湖のほとりにある小さな町から、日本の生殖医療に一石を投じてきた産婦人科医は、日本の不妊治療に何を思うのか。『週刊ダイヤモンド』7月21日号の第2特集「不妊治療最前線」の拡大版としてインタビューをお届けする。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 野村聖子)
――妹から姉への卵子提供による体外受精を行ったとして、一度日本産科婦人科学会(以下、学会)を1996年に除名されました。学会に復帰した後も、非配偶者からの精子・卵子提供による体外受精を続け、代理出産まで行いましたが、それはなぜですか。
これらの治療を必要とする患者さんがいるからです。学会のために医師がいるのではなく、患者さんのためにいるわけですから。
不妊症の中には、夫婦間で治療すれば妊娠する可能性がある場合と、夫婦間では絶対妊娠が不可能な場合とがあり、私は後者の夫婦を「生殖障害者」と捉えています。
障害者の方を、相互扶助の精神のもとに、社会全体で助けてあげるのは当然のこと。だから私は、善意の第三者の協力による、精子や卵子の提供、代理出産による生殖医療を「扶助生殖医療」と定義し、この医療を必要とする患者さんがいるということを社会全体で考えていくべきと、学会内部から問題提起をし続けています。
だからと言って私はこの方法を推奨しているわけではありません。あくまでも、必要とする患者さんのための選択肢、医療行為の一つとして、行っています。
―― 一般社会からも先生に倫理観を問う声が多いのでは?