ヒット商品の裏には必ず「インサイト」あり。消費者がモノを思わず買いたくなってしまう心のスイッチ――「インサイト」を活用し、新しい市場を切り拓く方法とは。国内での新規事業の創出だけでなく、インドや中国といった海外進出の際に実際に使われた方法もまとめた新刊『戦略インサイト』。本連載ではそのエッセンスや、マーケティングに関する最新トピックを解説していきます。
消費者との「共創」によって、ニーズをとらえたモノづくりを行い、ヒット商品となったマルイのPB「ラクチンきれいシューズ」。丸井グループは、「共創」の取り組みを商品づくりから店舗づくりやネット通販などさまざまな領域での成功に拡げ、経営レベルで「共創」を実践しています。その取り組みを、見ていくことにしましょう。
ファッションは、消費者と向き合ってきたか?
マルイはバブル期のDCブランド・ブームをとらえて、「ヤング・ファッション・赤いカード」で業界をリードした百貨店です。しかしバブル崩壊以降、ファッション市場は縮小していきます。若い世代のファッションに対する意識や態度が、どんどん変わっていきました。
若い世代ほどファッションを「自分のスタイルや個性を表現するモノ」とは思っていません。「服で差をつける」ことより「変に目立ってまわりから浮いてしまう」ことを怖れています。そのため主張の強い個性的な服装より、肩に力が入っていない「普通にオシャレ」な服装のほうを選ぶ傾向にあります。
花火の日にみんなで浴衣を着るなど、イベントでは仲間との一体感や場の盛り上がりを楽しむことはあっても日常的に着る服はきわめて普通。着ていて気持ちがよい、自分にとっての快適さがとても大切なポイントです。
しかしファッション業界はトレンドをつくり出し、それを消費者に押し付ける売り手志向だったのではないか。ファッションはマルイも含めて消費者としっかり向き合ってきたと言えるのだろうか。
何がカッコイイ、カワイイといったトレンドづくりに注力するあまり、身につける「心地よさ」がおろそかになってきたのではないか。その最たるものが女性用のシューズではないか。そこから消費者との「共創」によるシューズづくりの取り組みが始まったのです。
消費者との「共創」:「ラクチンきれいシューズ」のヒット
消費者と向き合うために、マルイは何を行ってきたのでしょうか。まず行ったのは、靴の悩みを調査するウェブアンケート。幅広いニーズを探るため、年齢を狭めずに、2000名の女性に調査をしました。その結果90%の女性が、「履き心地」に不満を持っていることがわかりました。いったいそれは具体的にどのような不満なのか、その原因は何かを探る必要があります。
消費者と向き合い、本当に欲しいシューズを「共創」する上で、マルイが最も大切にしてきた活動が「お客さま企画会議」。消費者の持つ不満やニーズを話し合い、新しいシューズの商品開発を行う。まさに「お客さまと一緒につくる」会議です。
その企画会議の中で女性用パンプスの「履き心地への不満」として、「つま先が痛くなる」「かかとが脱げる」という2点が抽出されました。女性の足を測り直したところ、従来の木型が足に合っていないことがわかり、マルイは足に合った新たな木型を独自に開発したのです。
その後、サンプル品を作成して、消費者モニターに試し履きをしてもらいます。「履き心地」と「見た目」の感想を丁寧に聞き、本当のニーズを見極めることが重要です。そして、消費者モニター消費者モニター全員が100点満点で80点以上をつけた試作品だけを商品化します。そのため、合格点をもらえるまで、何度も改良と試し履きを繰り返すことになります。
そして、出来上がった「ラクチンきれいシューズ」は、「おしゃれ」「履き心地」「値ごろ」の3大ニーズを満たした商品となったのです。
消費者との共創の仕組みが出来上がったことで、2010年発売のパンプスから始まって、サンダル、ブーツ、カジュアルシューズなどにも、取り組みを拡大。2017年6月末までに累計販売数370万足を突破したヒット商品になったのです。