大学卒業後は高校の教諭として内定も決まっていたのだが、「ガキ」を相手に一生を過すことに疑問を感じる。このままでは人生を不完全燃焼で終わるのではないか。完全燃焼したい。そう考え続けた著者は自衛官という道を選択する。しかも大卒が目指す幹部候補ではなく、中卒、高卒者を対象とした一兵卒として入隊することになる。「軍隊」ならば常に本気で生きていけるはずという思いと共に。

 著者が軍隊という道を選んだのは、とりわけ父の影響が大きいようだ。父は戦前、陸軍中野学校というスパイ養成所出身者であったのだ。著者の父は徹底して無私の人であり、自分の信念に忠実に生きる事を人生の至上命題にしているような人物だ。戦中に受けた蒋介石暗殺命令が実行に移される前に終戦をむかえるが、命令は取り消されていないとして、蒋介石が亡くなるまで、暗殺の訓練を行っていた。

 完全燃焼した一生を送りたい!そう願って自衛官を選んだ著者だが、期待は裏切られる。一兵卒から幹部にいたるまで、官僚的思考が蔓延る自衛隊は、いかに本気を出さずに、本気の様な振りをするのかという行動様式が蔓延していたのだ。当然、本気で生きたいと願う伊藤と組織としての自衛隊との間で多くの摩擦が発生する。官僚的組織の中で苦闘するエピソードは驚きと興味深いエピソードで満載だ。また、伊藤と自衛隊組織の摩擦のみならず、日本の国防がどのような行動様式の組織に委ねられているのかという視点を得ることができる。

 個々の自衛官は優秀で、心の奥底では国や社会に貢献したいという熱い思いを秘めている。しかし組織の歯車として生きていくうちに、次第に官僚的に振舞うのが当たり前になってしまう。組織文化に抗っていた著者自身も、幹部となり自衛隊の中堅的な立場に立つ頃には、艦や兵士の錬度よりも自分の仕事を減らし、楽をする生き方が身についてしまっていたという。そんな時に起きたのが「能登半島不審船事件」とその後と特殊部隊発足だ。

 強い希望で特殊部隊の創設メンバーに加わった著者はまた落胆する。今度こそ国も自衛隊も国防に本気になったかと、勇んで着任してみれば、部隊創設メンバーは伊藤を入れて4人だけ。それも3ヵ月で第一期生の訓練を開始しなければならない。なんのノウハウも無い中でそれは無理というものだ。また、形だけを作ればいいという自衛隊の悪癖が現れていた。

 しかし、伊藤と初代部隊長は本気であった。組織の思惑を無視して、本気で特殊部隊の創設にまい進する。創設後は8年にわたり「特別警備隊」のレベルを引き上げることに専念するのだが、突然、それも終わりをむかえる事になる。官僚組織の壁に阻まれて。

 実は著者は以前にも『国のために死ねるか』という著作で自身の半生を綴っている。本作とも重複する話も多い。評者も前著のレビューをHONZに書いている。それでも今回、また本書のレビューを書いたのは、『国のために死ねるか』ではあまり詳細に描かれていなかった、自衛隊の内幕が詳しく書かれていたからだ。この部分だけでも読む価値があると思う。安全保障問題で混迷を極める極東地域にあって、自衛隊のリアルを知る事ができるのだ。

(HONZ 鰐部祥平)