また、親の相続がちらついてくると、自分の周辺で相続税で困ったという話がだんだんと耳に入ってきます。「田中さんちでさ、こんなことがあったんだよ。なんか、子どもたちがもう真っ青になっちゃってさ」というように、これ見よがしに、よその事情を話すのもよくありません。下心を感じます。

 結論をいうと、相続を客体で扱うのがいけないのです。自分が汚れ役を引き受けることなく、親に何かを気づかせようという話が一番よくないのです。相続は自分たちの話です。自分たちのこととして真剣に向き合っていけば、親は理解してくれるはずです。

 子どもから単独で積極的にできる相続対策は、正直いって何もありません。基本方針は、あくまでも親に喜ばれること、親との関係をよくすることにあると私は考えています。「親孝行、計ってみれば数億円」というのが私の持論です。普段から、親とよく話すこと、そして下心なく親孝行を心がけていれば、それがいつしか自分のプラスとなっていくのです。

あえて生前に家を手放すという選択

 まれなケースですが、生きているうちに家を売る決断をする親御さんがいらっしゃいます。子どもたちに面倒をかけるくらいなら、相続する「実家」をなくしてしまえばいいという考え方です。

 たとえば、以前から私たちがご相談に乗っていたご家庭の話ですが、先日、お母さんが92歳で亡くなりました。娘さんが3人いらっしゃるのですが、みなさんご結婚して持ち家があります。普通ならば、「さあ実家をどうしようか」という面倒な話になるところですが、どうやら話は簡単につきそうです。

 というのも、生前からお母さんが「私が死んだら、家と土地は3人で分けなさい」と繰り返し話していたそうなのです。おそらく、売却して得た現金を、等分に分けることになるでしょう。遺言書はありませんでしたが、このように生前にお母さんの意思が確認できていれば、遺産分割の話はスムーズに進みます。

 ここで大切なのは、娘三人が顔を合わせた席でお母さんが繰り返し話をしていたという点です。1人を相手にいっていただけでは、ほかの人が納得できません。しかし、このお母さんは、みんなの前で話していたというのが素晴らしいことでした。