「カネのない人間は一生、他人の奴隷になるしかない」──気がつけば、忖度独裁国家と化していた日本。そこには、権力に食い込んで甘い汁を吸うカネの亡者があふれている。そんなヤツらに鉄槌を下す痛快無比の投資エンターテインメント小説が誕生! その名も『特捜投資家』。そこで著者の永瀬隼介氏に同作の読みどころ、執筆秘話などを語って頂きました。話を聞くのは『特捜投資家』の編集者で、過去に『海賊とよばれた男』なども担当したベストセラー編集者・加藤晴之氏。第2回は、人生の敗者復活戦を戦おうとする主人公4人に込めた思いを語って頂きました。
メディアの弱体化と女性差別
加藤晴之(以下、加藤) 前回は『特捜投資家』執筆のコアとなった「怪物」についてお話し頂きました。今回は、その怪物と戦う主人公たちについても伺わせて下さい。
1960年鹿児島県溝辺町(現霧島市)生まれ。週刊誌記者を経て1991年、フリージャーナリストとして独立。おもに犯罪ノンフィクションを手がける。2000年、『サイレント・ボーダー』(文春文庫)で小説家デビュー。他の小説作品に『閃光』(角川文庫、2010年に映画化)、『カミカゼ』(幻冬舎文庫)、『悔いてのち』(光文社文庫)、『凄腕』(文藝春秋)など。ノンフィクション作品としては『19歳 一家四人惨殺犯の告白』『疑惑の真相「昭和」8大事件を追う』(以上、角川文庫)などがある。『特捜投資家』は、ノンフィクション・クライムノベルの名手・永瀬氏の新境地。
永瀬隼介(以下、永瀬)わかりました。
加藤 本のカバー部分には、彼らについて「斜陽の新聞社を辞めた泣き虫記者、失敗続きのバリキャリ美女、うだつの上がらない学習塾経営者、そして、地獄から這い上がった孤高の投資家……。忖度と追従の国で、崖っぷち4人の反撃が始まる!」という惹句が入っています。バラエティに富んだ顔ぶれですが、まずこの泣き虫記者とは?
永瀬 今回の作品では既存メディア、いわゆるレガシーメディアの凋落についてかなり言及しています。その象徴が泣き虫記者こと有馬浩介です。ネット登場以降の新聞の影響力や部数の低下は想像以上です。そして、関係者たちに話を聞くと「新聞はこんなに国家権力や大企業に忖度しているのか」とびっくりします。有馬はそうした現状に憤慨して立ち上がった男なんです。
加藤 涙もろくて、ちょっと情けない部分はあるんですけどね(笑)。ただ、おっしゃるように新聞をはじめとするメディアの弱体化はとても深刻です。たとえば東芝の不正会計を巡る問題だって、どう考えても粉飾決算なのに「不適切会計」なんて言葉を使って実態をぼかす。さらにあれだけの事件を立件さえしない検察への追及も甘い。前回永瀬さんが言っていたイトマン事件なんかと比べると、東芝へのメディアの関わり方って弱い気がします。
永瀬 そういった違和感を有馬を通じて作品に反映させたわけです。
加藤 なるほど。では次にバリキャリ美女の椎名マリア。本名は五反田富子(笑)。彼女も面白いですよね。どのように人物造形をされたんですか。結果として非常に魅力的な女性として描かれますが。
永瀬 いろいろな取材を重ねるなかで徐々に構築されていった感じです。彼女はビジネスの世界でのし上がろうとして男を利用するわけですが、どうしてもそうせざるを得ない面がある。いまだに根強い女性差別があって、必要以上に自分を大きく見せないと生き残れないから。そういう意味では懸命に頑張っている女性なんです。
加藤 そんな健気なキャラだったんですか。
永瀬 もちろんなかなかしたたかなんですけど(笑)。とはいえ根底にはそういう問題意識も込めてキャラ設定しました。
加藤 たしかに東京医大における入学試験の点数操作の件でも、女性差別は大きな問題になりました。女性差別の問題はまだまだ根深いですね。
永瀬 だから、そういう状況と戦っている強い女性ってカッコいいじゃないですか。いまの日本はロリコン系が流行りかもしれませんけど、こういうルパン三世の峰不二子みたいな女性もいいと思うんです(笑)。
加藤 なるほど(笑)。おっしゃるような角度から読み解くと、たしかにこの女性キャラはすごく魅力的ですね。